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トピックス
従業員との信頼構築
2010年12月13日
従業員との労務トラブルに頭を痛める経営者は多い。厳しい経済情勢のなか、経営者は従業員との信頼関係を構築し、働きやすい職場環境作りが求められている。各事業者のさまざまな取り組みについて聞いた。また、弊紙独自調査とともにトラボックス会員の協力を得て、アンケート調査を実施。272社から回答を得た。
フラットな社風確立
武田運輸(札幌市東区)の会社組織図は「ハンドル・タイヤ」をイメージした丸型だ。組織図は通常、株主総会・取締役会・社長などを上に置き、そこから枝分かれしながら下の役職・組織に裾が広がっていく「樹形図」や「トーナメント」のような三角形にすることが多いが、同社では運行管理者、整備管理者、乗務員まで掲載し、社長と従業員とのフラットな関係を表している。「はじめは三角形、その後は社長を一番下に置いた逆三角形にした。ただ、逆三角形は見た目のバランスが悪かった」と笑う武田秀一社長。「社員が入社する際に必ず言うのだが、社長も幹部も新入社員も、ただ仕事上での役割が違うだけで、社長が偉い、絶対ということはない」と説明する。
同社では、「お客様」まで組織図に組み込み、「お客様を上に固定し、全員がグルグルと回転する」ことをイメージしている。全員が一体となって質の高いサービスの提供や社会貢献をすることを表現している。
事務所では笑い声が絶えず、アットホームな雰囲気を醸成。「いい仕事には笑いが必要。従業員には快適な空間で働いてもらい、武田運輸の社員であることに胸を張ってもらいたい」とする。
このような社長の考えがフラットな社風をつくり、従業員の自主的な働きを促すことにもつながる。HP上に住所を置く「インターネット営業部」。会社のPR活動を担当する同営業部は、同社の管理者による自主的な取り組みだ。「好きでやっているようだが、やりたいことがあるなら責任を持たせ、どんどんやってもらう」。同社では経営者と従業員の信頼関係がしっかりと築かれている。(玉島雅基)
取り組みよりも気持ち込めたあいさつ
「特別な取り組みは特にしていない」と話すのは、大阪府東大阪市の運送会社社長。設立30年で従業員を20人ほど抱えるが、事務所内はいつも和やかでアットホームな雰囲気。「労使間の問題はこれまでない」というが、「従業員に対してこれといった取り組みはしていない」のが特色。「従業員とは、べったりしては駄目。着かず離れずで、普通に接していくのがベスト」とも強調。そう話すのは過去の苦い経験からだ。昔は、近距離便が中心で景気も良かったこともあり、社内旅行やレクリエーションをよく実施していた。従業員の誕生日にはお祝いをあげたり、中元や歳暮も欠かさず贈っていた。
しかし長年続けていると、一部の従業員から「毎年たったこれだけしかもらえない」といった言葉を耳にするようになった。贈り物を受け取るのは当たり前という認識になり、お礼の返事もまったくなくなったという。
また、仕事のできる従業員を個人的に遊びに誘ったりもしたが、社長の思いとは逆に、そんな従業員がやめていくこともあった。
現在、レクリエーション行事や贈り物は一切ない。社長が従業員に対し心がけているのは、最後の従業員が帰社するまで会社に残り、気持ちを込めて「いってらっしゃい」「お帰りなさい」とあいさつすること。また、個々の従業員に対して好き嫌いがあっても仕事では平等に接するようにしている。
給料は固定給で高速料金は会社持ちにしている。売り上げの4割程度を給料に当てているが、「運賃面で厳しい状況にある中で、できるだけ給料を出してやりたい気持ちでいっぱい。それが今一番喜ばれること」と話している。(大塚 仁)
強制ではなく自発的行動に意味
名備運輸(愛知県小牧市)の丸川靖彦社長は、ドライバーとの信頼関係について「自主性を重んじることが大切」と話す。昨年から始めた「ありがとうプロジェクト」は、言葉にすることで日頃、忘れがちな感謝の気持ちを再認識することを目的としたものだが、ドライバーに強制するようなことはなく、社長をはじめとして事務所のスタッフが率先して運動を行っているという。
また、同社の敷地内にある「あたりまえのーえん」も従業員との絆に役立っている。烏骨鶏の飼育や野菜栽培をしている同農園では、草むしりやエサやりをすべて従業員の自主性に任せている。「誰かに言われてするのではなく、自発的にすることに意味がある」と丸川社長。同農園の名前は社長が口ぐせにしている「当たり前のことを、当たり前にできる人になってほしい」という言葉から採用したものだ。
農園で採れた野菜は、カレーの具材にして全員で食べているという。伸び伸びした社員教育は、もはや同社の社風となっている。(加藤 崇)困ったときは親身に相談
大阪府吹田市の運送会社社長は「新年会と忘年会は必ず行い、そこでしっかりと従業員の話を聞くよう心がけている」という。「困った時や事故を起こした時は親身に相談にのること。特に重労働の仕事を担う従業員には積極的に話しかけることが大切」と話す。
配車担当や専務に就いていた時からのドライバーが残っていることもあり、同社長は「何も言わなくても気持ちを理解してくれている」という。
「ドライバー時代に一緒に汗を流して働いた従業員、私が面接をして入社した従業員が残っている。長年の付き合いなどで仕事に対しての信頼関係を築いている」と話す。
公平に評価することを心掛けている同社長。「厳しい時代だが、ボーナスも支給し給与のカットは行っていない。お金で解決しているわけではないが、従業員のモチベーションを下げないように経営努力はしている」と語る。
また、「いい車に乗っているので従業員の給与はカットできない。頑張って仕事をしてくれているので逆に自分に対してのプレッシャーになり、よいモチベーションになっている」とし、「事故を減らすことで、よい職場環境が作れるのではないか」と話す。(山田克明)
ドライバーと適度な距離を
食品輸送を手掛けるエス・アール・エス(埼玉県春日部市)の鈴木義則社長は、「ドライバーとの距離は近すぎても遠すぎてもだめで、そのバランスを取るのが大切」と話す。事務所内は禁煙で戸外に喫煙所を設けており、仕事を終えたドライバーらも、そこに集まりタバコを吸っているが、鈴木社長もタバコを吸いながら、ドライバーとコミュニケーションをとっているという。
またドライバーらの仕事ぶりを見るため、新人もベテランも関係なく、社長が定期的に助手席に乗っている。仕事への取り組み方や運転の仕方などをチェックするためというが、そこにはドライバーとのコミュニケーションをとる目的もある。
「助手席に乗れば当然、話をする。趣味や家族のことなど、プライベートな話を聞くことで、お互いに信頼関係を築くことができる」と指摘する。
「横に乗られて、ドライバーらはやりにくさを感じているかもしれないが、ドライバーらの日々の取り組みを知り、またコミュニケーションをとる上でも重要なこと。ずっと続けていきたい」と話している。(高田直樹)
ドライバー表彰を実施
ブルハ(さいたま市中央区)では、業績拡大に対する従業員への還元とやる気を喚起することを目的に、社内イベントを開催した。がんばっているドライバーを表彰し、新型液晶テレビなどの豪華賞品を支給した。同社の重松豊社長は、「仕事に取り組む姿勢が前向きになるように企画した」と説明。「今後も企画するつもりだが、同じイベントではなく、カンフル剤となるようアイデアを出していきたい」と語る。
32歳の社長と同世代から63歳のドライバーまでと幅広い年齢構成の同社。あいさつや「報・連・相」など、基本を徹底して教育しているという。「実力主義だが、1歳でも年長者には敬語を使うように指導している」とも。また、「どうすれば荷主が喜んでくれるか、自分がドライバーだったときの経験を伝えている」とし、「風が来ている会社が伸びている今こそ、気を引き締めないといけないと口うるさく言っている」と語る。(大西友洋)
会話交わして風通しの良い雰囲気に
景気低迷により運賃収入が減少。しわ寄せがドライバーや従業員に及んだ結果、ドライバーらが会社を告発するなどの労務トラブルも増加している。大阪市港区に本社を構えるサカノ商運(阪野美恵子社長)では、奥さんが社長を務め配車も行っている。ご主人の阪野利樹氏は専務を務め、現場作業を中心に活躍している。点呼も会社では社長が行い、ドライバー一人ひとりにあいさつを実施する。体調や仕事のことで出来る限り話し合い、ドライバーの異変を察知するようにしている。現場では専務が作業を手伝ったり、無線で会話や道案内を行うなど、信頼関係を築くよう努力している。
阪野社長は「ドライバーの母親のつもりで接している。若いドライバーも多く不満があれば出来るだけ話を聞き、シコリが残らないよう風通しの良い雰囲気作りを心掛けている。そうすることでドライバーと経営陣の思いは通じ合うと考えている」と話す。
さらに、「普段はもちろん、年2回バーベーキューを通じて親睦を深めている。ドライバーあっての事業と考えることで、ドライバーとの信頼が生まれる」と語っている。(佐藤弘行)
本音を聞く場を設置
ヤマツーナッジ(大阪府吹田市)は従業員とのコミュニケーションを図るためにボウリング大会や忘年会などを開き、従業員の本音を聞く場を設けている。
同社は、月1回の営業会議と部長会議を実施しており、そこで従業員の不満などを議題にあげて改善している。山田吉春社長は「不平不満を改善していかなくてはいけない。会社と従業員の関係は永遠のテーマ」と強調する。現在の悩みは労務問題。「働けずに時間に縛られていることに不満を持つ社員から『昔は稼げていた』との声も上がっている」という。
前向きな社員が、やる気をなくさないために年に1度、優秀な社員2人を海外に連れて行くという山田社長。「社員には色々なことをしてあげたい」と話している。(中村優希)
代表者が幹部と相談
付加サービスを早くから採り入れた物流を行う、大東梱包(横浜市)の社是は「迅速、丁寧、確実、低廉」。石川康司社長は「物流企業でも当たり前のように言われている言葉ばかりだが、これを掲げたのは、この仕事を大正13年に始めた祖父。これを守るには、全社員が真心を込めて早く、安く、効率良く、そして安心・安全に行動しなければならない」と話す。同社の従業員数は現在、パート・アルバイトを含めて172人。従業員が一丸となって働けるように、社内で実施しているのが親睦会制度だ。社員から会費を集めて運営している。代表者が月1回、定例で経営幹部らとミーティングを開いて安全管理、問題提起、イベント相談などを行う。
また、賞与額など賃金関係についても代表者による交渉の場が設けられている。さらに石川社長は横浜本社のほか、相模原や大阪、千葉などの営業所も含め、定期的に全職場を巡回している。「自分の目で実際にみること、社員と顔を合わすことは、色々な面でとても重要」と話す。(小澤 裕)
メールと対話で信頼構築
「若い人が持っているものを採り入れる。そして、チャレンジ精神を持つようにしている」。マルブン運送サービス(兵庫県尼崎市)の土屋等社長はそんなふうに心がけを話す。普段、ゆっくり話す時間が持てない従業員とのコミュニケーション手段は電子メール。仕事上うまくいかないことや相談事をメールで送ってもらう。
もっとも、何より重視するコミュニケーションは対話だ。対話は信頼を得るための手段。同社長は、商店街からスーパーマーケットに小売りの現場が変遷していった時代変化を、「人々から正直さがなくなっていった」過程と重ね合わせる。「商売人は、自分の信頼を得るために対面販売をしていたと思う」と語る。
そんな対話を通じてのコミュニケーション。月に一度しか会わない者でも、メールによる日々の連絡があるから、肩をたたいて「頑張ってるな」とひと声かけるだけだ。(西口訓生)
連絡は家族にも
名古屋東部陸運(小幡輝雄社長、愛知県豊田市)は、夏休みに、社員とその家族の事故防止ポスターなどの作品を募集しているが、従業員との距離をより近いものにするため、社員への通信を家族あてに郵送している。安全対策に家族を囲み込むことで一人ひとりの意識が高まるため、社内の連絡事項は社員に文書を手渡すだけではなく、家族あての封書を送る。夏休みに親子で作品に取り組みながら、家族のコミュニケーションをとってもらう作品コンクールとともに、社員との距離を縮めている。
作品コンクール募集も家族に通知しており、これらの作品から心のゆとり、つながりが築かれている。(戸嶋晶子)
虚礼を廃止して従業員に還元
「ドライバーをはじめ従業員とその家族に誕生日プレゼントを贈っている」というのは東京都大田区で創業30年になる運送会社のT社長。同社が誕生日プレゼントを始めたのは6年前。「それまでは取引先に欠かさず盆と暮れの贈り物をしてきた。しかし先方の担当者はころころ変わり、仕事に何かメリットがあるわけでもなく、むしろ値引き要請ばかり。思い切って『虚礼』を廃止した」という。そのコストを従業員向けに回したところ、従業員からの評判は上々だったが、「全体の経費はむしろ上がってしまった」と笑う。
それでも「小さな子どもから礼状が届く」など、うれしいこともある。コミュニケーションの充実にも大いに役立っており、「今はこれで良いと思っている」という。(土居忠幸)
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