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ニュース部門 ノミネート記事

エントリーNo.2 (2016年5月2日号)

 

災害時の支援物資輸送

運賃の決め方は

 地震災害対策として緊急支援物資が熊本県内に運び込まれる様子の映像が、今回の震災でも数多く映し出された。その支援物資の供給元、つまり熊本県内以外の各自治体などに目を転じると、そこでは「なぜ」と思われる物資輸送上の実態や風聞に接する。心情的には「目の前の被災者に寄り添う目線」を大切にしつつも、全国のどこで地震被害が起きてもおかしくない日本。今後の備えの在り方を視野に入れながら、今このタイミングであえて問う。

輸送力の確保難しく運賃増

 「熊本まで30万円、いや、いくらかかってもいいから走ってくれと言っている」。近畿地方にあるトラック事業者は、熊本地震発生から1週間経過した先月21日、外部からそのような情報が入ってきていることを明かした。情報の出元は詳しくは分からないというが、積み荷は「水」。支援物資らしいことをほのめかした。
 事業者は普段、鋼材などの輸送を主力としている。積み荷に違いもあるものの、事業者は「ウチは請けない」と言いながら、その事情を「乗務員の高齢化」にあるとした。もし請ければ、熊本までの長距離輸送の労力に加え、被災地の混乱状況からくる下ろし場所などの不確定要素も覚悟しなければならない。高齢の乗務員にとっては、その後、数日間も体力的にダメージを受けてしまうのが分かるという。
 トラック業界で昨今懸念されている問題がここにも集約されている。主に若年労働力の不足と、それを原因とする輸送力の確保が困難になるという問題だ。加えて、それゆえにスポット輸送に多くみられる運賃の高騰も入っている。

地元自治体の物資輸送要請

 支援物資輸送を担うトラックが決定した場合でも「なぜ」が発生している。兵庫ト協東部支部では、地元自治体の尼崎市から水、乾パン、アルファ化米といった支援物資の輸送依頼を請けた。ところが、市からは「運賃は出せません」との言葉を支部担当者は聞いた。
 尼崎市が災害対策基本法をもとに策定した「地域防災計画」によると、平成8年に「同市は熊本市と「広域相互応援協定」を締結している。どちらかの市に災害があれば、食料や飲料水などの生活必需品を支援する内容をはじめ、その手続きについても協定書に記載がある。今回の支援物資輸送は、相互協定に基づくものだという。協定の中には「応援費用の負担」の条文もあり、応援する市と応援を受ける市の別の協議によって負担割合を決めるとされている。
 地域防災計画や協定を踏まえて尼崎市の担当者は、緊急輸送について「防災計画は、尼崎市内に被害があったときのことを主に想定して作られている」として、市内での災害の場合には輸送を担う民間事業者と別途の協定を結んでいることを認める。

災害時の相互応援協定
遠隔地の都市 負担割合は別協議


 しかし、遠隔地の相互協定関係にある都市が被害を受けた場合の輸送に関しては輸送の担い手は決まっていないという。その理由として担当者は、「他都市での被害は尼崎市の被害と比べ緊急性が薄くなる。そうした場合、輸送を担う民間事業者をあらかじめ決めておくのは、市発注業務に求められる公平性と相矛盾するところが出てくる」と説明している。
 災害時の相互応援協定は尼崎市―熊本市のような広域のものに限らず、災害対策基本法で整備を求められていることから、隣接市町村や都道府県間などでも結ばれている。締結にこそ法的根拠はあるが、締結の内容は二者間の合意が基本となるため、細かい点での違いが見られる。

運賃 外部への説明必要
持続不可能にならないために


 ここで見られたのは、救援物資の輸送にまつわる、主に運賃の話だ。被災して困っている人がたくさんおられるのに、あえて今、運賃の話を持ち出すこと自体、不謹慎であることは重々承知の上での考察だ。
 自治体が民間事業者と結んでいる災害時協定には、表現こそおとなしいものの、「エッ」と思わせるものがある。
 中核市に位置する西日本の自治体は、市域にある外資系の食料・雑貨スーパーマーケット事業者と、災害時の食料供給に関して協定を結んでいる。その中の「支払い」の条文は次のようなものだ。「甲(市)は、乙(スーパー)が提供した物資の代金及び運搬に要した経費については、乙からの請求書に基づき、遅滞なくその支払いを行うものとする」――。スーパー側がかかったと主張する経費については、「請求書に基づいて」市が支払うとするものだ。この市が他のスーパーなどと結ぶ協定書では「甲(市)が負担するものとする」とそっけなく書かれているのとは対照的に、スーパー側に有利な協定と言わざるを得ない。
 別の市と大手トラック事業者が結ぶ、災害時の輸送協力協定では費用負担について、「自動車輸送の協力に要した経費は、甲が負担するものとし、その額についてはその都度甲乙協議のうえ決定する」(神戸市と日本通運神戸支店の協定の一部)となっているなど、両者で協議することとなっているものがほとんどだ。常軌を逸するような協定は見当たらない。
 しかし、本文で見たように、近畿地方から熊本まで「30万円、いや、いくらでも出す」といった料金が出てくるのは、そもそも広域援助の輸送業務には協定自身がほとんど存在しないこと、そしてトラック業界の現在の人手不足などが反映されたものとみることができる。
 トラック業界は、業界のそうした事情を丁寧に説明することで、場当たり的にならないための運賃の決め方を外部に説明することが必要ではないか。「火事場泥棒」「料金をもらえない持続不可能なボランティア」にならないためにも。
 のど元過ぎれば熱さを忘れる、といわれる。やや不謹慎なタイミングではあるがあえて、救援物資輸送の在り方を問う。