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企業・経営者部門 ノミネート記事

エントリーNo.6 (2018年6月18日号)

 

定着率向上「企業は人なり」

エーシートランスポート 池永社長

 「友人の紹介で地元の運送会社にドライバーとして入社したのが、この業界に入ったきっかけだった」と振り返るエーシートランスポート(埼玉県戸田市)の池永和義社長。2年間ドライバーをやった後、配車マンとして事務所に上がる。ドライバーとして働いていた時、事務所にかかってきた電話への対応が、社長の目にとまったようだ。その後、配車マンとして経験を積んだ。

 しかし、会社が吸収合併されたことで、新しい職場での折り合いが悪くなり、会社に居づらくなった。合併の翌年、一念発起して独立、同社を設立する。平成14年、同社長29歳の時だ。

 翌15年に緑ナンバーを取得し、運送会社としてスタートを切った同社は、一気に成長軌道に乗る。

 2年後には台数は14台まで増え、さらに、その3年後の平成20年には、30台まで増えた。順調に台数を増やし、経営は順風満帆かのように見えていた。しかし、そこから停滞が始まる。「人が入ってもすぐに辞めていく。辞め方も悪く、何も言わずに黙って逃げるように辞めていった」という。ただ、それなりの理由もあった。「今だから言えるが、当時は殴る、蹴るは当たり前で、3回遅刻すると坊主頭で、私自身が従業員の頭にバリカンを入れていた」と同社長が振り返るように、同社長自身、まさに恐怖政治を行う独裁者のようで、「企業は俺だと考えていた」。従業員を「おい」「お前」と呼び、名前で呼んだこともなかったという。

 しかし、同社長はそれが悪いこととは気付かず、ただ、人が定着しないことに疑問を感じていただけだった。

 それを気付かせてくれたのが、知り合いの勧めで行った研修だった。「自分がいかにあぐらをかいていたかを思い知らされた」という。「企業は俺だ」という考えから、「企業は人だ」と気付いた瞬間でもあった。

 それまでの暴力は封印し、従業員を名前で呼ぶようになった。「社内が明るくなった」というが、その変化は、その後の定着率の向上にもつながった。

 今では、従業員とその家族を巻き込んだ大バーベキュー大会や餅つき大会を開いたり、節分には恵方巻を、土用の丑の日にはうなぎ弁当を、クリスマスにはケーキを、それぞれ従業員に配っている。

 180度変わった社内環境は、会社に活気をもたらせている。今年、新卒採用で、5人の採用ができたのも、そうした社内環境の変化からだ。

 現在、車両は50台で従業員は60人に増えた。組織作りにも手応えを感じてきたという同社長は、3年以内に、食品事業部、建材事業部、そしてオフィス移転事業部など、事業部制を確立させ、その後、それぞれの事業部を会社として独立させ、将来的にはホールディングス制も視野に展開していくとしている。

 前期は8億6000万円だった売り上げは、10月決算の今期は9億2000万円に届く予定で、「10年後には、年商50億円、従業員300人を達成したい」と意気込みを語っている。

 「5人の社長を育成したい」と語る同社長には、以前のような独裁者の面影はなく、そこには「企業は人なり」を実行する経営者の姿があった。