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ニュース部門 ノミネート記事

エントリーNo.8 (2018年10月15日号)

 

高潮被害のトラックに「一括請求」

 9月の台風21号の高潮によって冠水し、修復ができないと判断されたトラックについて、所有権を持つリース会社がユーザー(トラック運送事業者)に対し、残額を一括して支払うよう請求していたことが分かった。一括支払いの請求に違法性はないものの、大規模災害時には一括請求のような無理な請求をしないよう求める通知が、経済産業省から「リース事業協会」(柳井隆博会長=三菱UFJリース、東京都千代田区)に向けて出されている。通知は東日本大震災以降、複数回出されており、今年も西日本豪雨と北海道地震に際して出されたばかり。通知に反する請求がなされていたことにリース事業協会は「正直、残念だ」と、本紙取材に話している。

 一括での残額支払いを求められたのは、神戸市内のトラック運送事業者。事業者は、同市内にあるトラック車庫に複数台の保有トラックを停めていた。先月4日の台風21号による高潮が車庫近辺を襲い、車庫に停めていた全てのトラックが海水によって冠水した。

 事業者は、トラックが修理可能か否かをディーラーに打診。全てのトラックについて「走行できるようにはなっても保証はできない」と告げられた。

 冠水トラックは、いずれもリース会社を通して調達した。事業者は、トラックに所有権を持つ複数のリース会社に連絡を入れ、各車両の残金リストを送付するよう依頼した。その後の様子について、事業者は話す。

 「リース会社の対応が分かれた。こっち(地方銀行系のリース会社)は、従来どおりの支払い(割賦)を続けるよう言ってくれたが、そちら(国内メガバンク系リース会社)からは、いきなり一括払いの請求書が送付されてきた」

 まだ、他の複数のリース会社からの回答はない状態だ。事業者は、「修理に保証がつけられない修復不能の状態ではあっても、試しに1台修理してみるつもり。ある程度の可能性が見えれば、全てのトラックを修理して乗り続けることも、まだ選択肢として残っている」。つまり、自動車保険でいう「全損」状態によって市場価値はなくなっても、運送業務用として自ら使用する価値がある間は使い続けるという判断を捨ててはいない、ということだ。使い続けられれば運賃収入が得られるトラック。その判断を前に、一括支払いの請求書が来ること自体にも事業者は憤っている。

 リース事業協会や経産省によると、リース契約は風水害などの自然災害時にでも、リース物件の借り主(ユーザー)はリース残金の一括返済(違約金もしくは損害賠償金)を免れないのが原則だ。しかし、「被災した企業に一括返済を請求するのはいかがなものか、ということで、経産省から『支払いの猶予や柔軟な対応』を求める通知が来ている。東日本大震災(2011年)以降、会員リース会社は柔軟に対応しているはず」(リース事業協会)。

 例外としての支払い猶予措置に加え、経産省は次のようにも指摘。「風水害などでリース物件が毀損、滅失したときに備え、物件の所有者であるリース会社を通じて『動産総合保険』に加入しているユーザー(物件の借主)がほとんどと聞いている」(経産省・消費流通企画室)。ユーザーが保険金を負担していれば、物件が毀損した時には支払いは一切免除される効果があるのが動産総合保険だ。ただ、「流通など一部の業界では保険加入率が低いと聞いたこともある」(同)とも話す。

 先述のトラック事業者によると、保険加入の案内はリース会社からは一切なかった、という。

 リース取引の危険性について思い出されるのは、10年前の「リーマン・ショック」後のリース会社の対応。「リストラでトラックを処分しようにも、一括返済があるからできない」と、多くのトラック運送会社が話していた。トラックの導入を決めたのも、そしてリース契約による調達を決めたのもトラック事業者自身、というのは確か。しかしいくらなんでも、という感覚が一般感覚にはあった。

 自然災害が社会に露骨な牙をむく現在。動産総合保険や、経産省による通知という、一種のセーフティネットをかいくぐる形でトラック事業者に寄せられた今回の一括請求。請求行為のあった事後的に「残念」のひとことで済まされるリース業界に、根本的な問題があるようにも見える。

 リース事業にはそもそも、「リース事業法」のような業法が存在しない。経産省はそれでも、「業界の振興」の観点から、リース事業協会などの事業者団体に通知文などで行政指導を行っている。

 業法がないのにもかかわらず、なぜ指導ができるのか。経産省・消費流通企画室は「『経産省設置法』のなかに『信用保証業務の振興を図る』との記載がある。信用保証の一環を担うリース業という業態に対する指導」と位置づけられているようだ。

 風水害などの災害時に柔軟な姿勢を求めるための通知も、「業態に対する指導」をよく表している。通知は各リース会社に対してではなく、リース事業協会という団体に対して出しているものだからだ。各社は協会から通知を知らされるが、事業者に出されたものではないので順守する義務すらなく、契約の原則通りに一括返済を求めることは法的に問題のないことになってしまう。

 リース事業協会によると、協会が作成した契約の雛形(約款)は存在するが、契約書面の作り方、記載内容は各社の判断だという。

 リース契約は、リース会社の契約相手方は、ほぼ全てが法人の事業者。ゆえに、保護規定が充実する消費者法制の適用もない。契約時にはそうした原則があることをもう一度肝に銘じたい。災害多発期には。