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企業・経営者部門 ノミネート記事

エントリーNo.2 (2018年3月5日号)

 

剣道で培った精神力で組織づくり

三和ロジコム 川口廣祥社長

 剣道7段。三和ロジコム(福岡県八女市)の川口廣祥社長の穏やかさの中から、垣間見られる芯の強さは剣道で培ったものも多分にあるだろう。そう感じる取材だった。その精神力の強さは、「心を鍛錬する」という難しさをも知っているような雰囲気だった。

 川口社長は東京の商社で3年ほど勤務したのち、地元九州の福岡へ戻ってくる。「幼いころからドライバーの方たちとは距離も近く、随分かわいがってもらった」と当時を振り返る。それもそのはず、同社長の幼少期はドライバーは住み込みで働いていたからだ。しかし、それから20年。東京から福岡へ戻ってきた同社長が目にした光景は、当時とは違っていた。「ドライバー自体少なかったということもあるが、突然、明日は走らないよ、と言われることが日常茶飯事だった」と状況は一変していた。「それでは困る、と翌日の荷物を積み込んだ後に、ドライバーの自宅を駆け回り、なんとか走ってもらうよう話をつけにいっていた」と、日中の業務を終え、さらにトラックへの積み荷をしてからの説得作業が毎日のように続いた。

 「給料を上げないと走らないという声もあった」というが、「屈してはダメだ」と返事を突っぱねるとドライバーは一気に4、5人いなくなった。「一番大事なことは、なんとかせないかん、負けてはいけないという強い思い」と語る同社長。「やはり剣道の影響でしょう。負けてはダメ、と強く思っていた」と振り返る。人がいないため、自らドライバーを兼ねるようになったが、「これは会社ではない、組織ではない」と(当時の職である)自らの専務としての業務を全うするため、父親である先代の社長と共に組織づくりを敢行。「これが出来なければ辞めてやるという思いだった」と笑って語るが、そこには経営する立場としての確固たる信念もあり、その信念は川口家の努力によって花が咲いていくこととなる。

 同社長の下、順調に規模を拡大していく最中、突然、転機は訪れる。「取引先の手形が不渡りになり、その後も似たような状況が続いた」と災難が舞い込む。「そこそこ1、2年で1億円を超える未回収金。売り上げ規模を考えると、これはさすがにこたえた」と振り返る。業務への影響もおよそ10年は出たというが、「あまりくよくよしない」という同社長は、「参ったなと思っても、寝て起きたら、さあ、どうやって銀行からお金を借りようかな」と常に前向きに考えていたという。

 「何があっても、おかげさまでの精神。強い意志を持つことだ。人を困らせてはダメ」と説く。現在はドライバー同士の紹介もあり、人員にも困っておらず140人の社員を束ねるが、そこには「去っていく時の悲しさを知っているから」と心を通わす経営がある。

 「家族のために働く」というキーワードを持ち、「経営が苦しくても報奨、手当は必ず出す」という。その際、会社の現状とメッセージを自らしたためるなど細やかな心配りを忘れない。
 「外圧はどうでもいい。内部で団結すれば、どのような状況にも勝るんだから」と、とにかく明るく前向きな同社長。だからこその経営哲学を垣間見ることができた。