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ニュース部門 ノミネート記事

エントリーNo.7 (2017年6月12日号)

 

問題は「着荷主」

 トラックで運ばれてきた荷物を受け取る。文字通り受け身の行為のため、見過ごされてきた着側の果たすべき役割がクローズアップされている。「宅配ボックス」を荷物の着側もしくは行政の補助金によって設置を進める動きがその典型で、個人向け物流サービスの維持を見越した着側と公費による負担だ。一方の企業向け物流サービスでの着側負担に関しては、考え方としては随所で見られるものの、具体的な形ではなかなか表れてこない。受け身ゆえに隠れやすい着側の立場は、どのように位置づけられ、今後どうあるべきなのか。

受け身ゆえに隠れやすい

 5月31日に発表・公布された、荷待ち時間等を記録・保存することをトラック事業者に義務付けた、「貨物自動車運送事業輸送安全規則」の改定。トラックの待機時間、着側での待機時間の削減が目的とされる同規則では、「集荷地点等」でのトラックの到着や出発の時間を記録・保存するよう、6項目をトラック事業者に課している。
 規則では集荷地点などは、「荷主の都合により集荷又は配達を行った地点」と定義される。規則でいう地点、つまり場所に関しては荷物の着側という広範囲な概念を指すものの、だれの意向でその地点に行くことになったかという業務の指示者をトラック事業者にとっての荷主だけに限定している。
 仮に、荷主Aの指示によって着側Bにトラックを着けた運送事業者Xがあるとしよう。規則は、着側Bでのトラックの待機時間を記録するようXに義務付けるのだが、その義務付けは「荷主Aの都合により」トラックが待機した場合に限られることになる。
 しかし、トラック運行の実態で問題視されているのは、受け身ゆえに隠れやすい着側Bの行為だ。国交省も「待ち時間、特に着荷主側における待ち時間の解消に向けた取り組みへの理解と協力」(昨年12月6日の首相官邸連絡会議資料)が、トラックドライバーの長時間労働是正のために必要だと指摘している。
 荷主Aに関しては、従来からある「荷主勧告制度」(事業法64条)を事実上、一層強化する形で対応していく考えを国交省は示す。「荷待ち時間等の記録は、(中略)荷主に対する勧告権の発動に係る確認の一助とすることを目的とする」(パブリックコメントへの「国土交通省の考え方」)と明記している。

勧告制度は適用されぬ

 では、この荷主勧告制度が「着荷主」(先述資料)にも適用されるのか否か。荷主勧告でいう荷主の範囲に関しては、2014年1月の国交省自動車局長による通達の中で、「真荷主及び下請け事業者に対する元受貨物利用運送事業者」に限定している。つまり、荷主に準じるかのような「着荷主」といった言葉は使われるものの、勧告制度でいう荷主には当たらない。
 それでは、着側Bの都合によりトラックが待機した場合は、どのように対処していくのか。
 経済産業省は今年1月、「日本ショッピングセンター協会」などの流通8団体に対して、「トラック運送業との取引改善に向けた協力について」とする要請文を出した。この中で経産省は、「着荷主の都合による荷待ち待機に関する費用について、発荷主・着荷主との間の契約において明確化」「着荷主においても、自社の都合により、トラック運送事業者を長時間待機させない。やむを得ず待機させる場合においては、その分の人件費が発生することから、発荷主との契約における適切な費用負担について配慮すること」を求めた。
 着荷主側の配慮を今後担保していくような取り組みについて、経産省商務流通保安グループの担当者は、「フォローアップは、(国交省から)要請があった時で、いまはその予定はない」と話す。
 荷待ちをさせる着側Bへの歯止めはいまのところ、荷主勧告という行政指導対象になり得る荷主Aの危機感と、取引関係の売り手の立場にあり相対的に弱いため取り組みが進むか危ぶまれる荷主Aからの費用取り決め要請の2点で、かろうじて担保されるにとどまる。トラック業界関係者からは、「『物流危機』に対しては消費者個人でも何らかの対応が求められる時代。着側にもドライバーの待機所などがあった昔を知る者からみると、社会的にも法的にも着側企業が負う負担は本来もっと大きいものと感じる」といった見方も示される。

「荷主の客」に口を出せる?

 経産省による流通業界団体への要請などに出てくる「着荷主」の言葉。それに対して出てくるのが「発荷主」。先述の例でいえば、荷主Aと着側Bとの間に売買などの契約関係がすでに存在しており、そのうえでトラックの待ち時間の外部コスト負担を再設定するといった場面が想定されているものとみられる。
 しかし、荷主Aと着側Bに、そもそもの契約関係のない場合も物流現場では往々にしてある。その典型が営業倉庫からの出荷や海上コンテナ輸送などだ。  近畿地方の食品輸送事業者は、大阪・南港の営業倉庫の実名を挙げて「荷待ちがいまも無茶苦茶に長い」とこぼす。トラック事業者によると、荷主は営業倉庫に荷物を預けている商社から食品を仕入れている。トラック事業者の荷主と直接の契約があるのは商社であり、荷主が契約に基づいて待ち時間のコスト負担の再設定を営業倉庫に持っていけるわけもない、という。
 海コン輸送も似たような状況だ。通常、輸送事業者にオーダーを流すのは海貨業者からが多く、輸送事業者の荷主は海貨業者。しかし、輸送業者が長時間待たされるのは、海貨業者と直接の契約関係にない、ターミナル業者のヤードでのことだ。
 では、こうした分野の輸送の待ち時間対策としても、経産省から出されたような要請が出ているのか。
 大阪・南港の倉庫を所管する国交省近畿運輸局環境物流課担当者は、「従来からある倉庫でのトラックの荷待ち時間対策として、私たちが倉庫業界に働きかけていることはない」と話す。同じくコンテナヤードを所管する同運輸局貨物港運課も、「ヤードでのトラックの待ち時間対策としては何も下りてきていない」とする。
 今回改定された輸送安全規則は、荷主Aと着側Bとの契約関係を前提とはせず、あくまで荷主Aの都合であれば、待ち時間の記録対象となる。着荷主という曖昧な言葉を使わずに、物流現場に着眼することで包括的に記録対象としたことは評価できる。営業倉庫やコンテナヤードでの待ち時間も含まれることになるからだ。
 であれば、国交省は営業倉庫やコンテナヤードなどでも、待ち時間解消のための実効性ある一般的な施策を打ち出し、それを地域ごとで実行すべきだ。