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不正軽油は詐欺 石油販売業者の代金請求棄却
2011年11月21日
軽油には地方税である軽油引取税が課税されており、知事の許可を得ずに灯油を混ぜた軽油(不正軽油)の製造・販売は禁止されているが、不正軽油を販売する事案は後を絶たない。大阪高裁は先月、灯油が混ざった軽油の販売は詐欺に当たるとし、石油販売会社の代金の請求を棄却し、不正軽油に関する初の民事上の判断を下した。「灯油を混ぜた不正軽油を売っても代金請求はできない」ことを、司法として毅然とした判断を示した。
石油販売業者の壱商(奈良市)が、奈良三笠運輸(以下三笠、中尾安治社長、同)に対して平成20年2月から9月までの間に、灯油を40%以上混ぜた不正軽油を計1億4728万円で売却。不正軽油であることを知らなかった三笠は約1億2156万円を支払ったが、不正軽油と判明した後の残金約2572万円の支払いを拒んだところ、壱商が残金の支払いを求めて提訴。奈良地裁は昨年10月に壱商の請求を認める判決を出し、これを不服として三笠側が控訴していた。三笠は平成19年4月23日から壱商で軽油を購入。最初の納入時、奈良県税事務所立ち会いの下、壱商の関連の運送会社、藤和物流のタンクローリーから直接採油し、検査で純正軽油と証明され、平成20年2月から壱商のみの購入に変更した。
ところが同月、同社のトラックが広島県の抜き取り調査で、広島県税事務所から不正軽油使用の疑いを指摘され、奈良県税事務所が翌月、地下タンクからサンプル油を持ち帰り検査した結果、灯油が40%混入されていることが判明。壱商は「冬場であり、北海道で販売される灯油が混ざった3号軽油を販売している」と返答してきた。
同県税事務所は再度8月にサンプル油を採油したが、同じく40%混ざっていた。三笠は値段も普通の相場で軽油を購入し、軽油引取税1リットルあたり32円10銭を支払っていた。
口頭弁論で三笠は、不正軽油を通常の軽油のように装って購入させたもので、これは詐欺に当たると主張し、売買契約を取り消す旨を主張。一方、壱商は、不正軽油を販売したことはないと反論。3月に販売した軽油から灯油分が検出されたのは「事務所がある奈良市小倉町は名阪国道針ICに近く、冬場に道路が凍結することもある場所で、通常の軽油ではエンジンの始動不良などが懸念されたため、2、3月は寒冷地で冬季に使用される3号軽油を納入した。重量比で最大50%の灯油を含むもので、正規の軽油」とし、また、「8月以降に貯蔵タンク内の軽油から灯油分が検出されたのは、8月以降に他の石油販売業者から軽油を購入し、その業者が不正軽油を納入したため」と主張していた。
10月27日の大阪高裁(大西忠重裁判長)の判決では、平成20年3月から9月まで4回にわたって、貯蔵タンク、トラックに対して軽油の抜き取り調査を行い、結果はすべて40%程度以上の灯油分の混入を示すもので、また、2月から9月までの期間に壱商が仕入れた課税済み軽油の量は1万2607キロリットルであるのに対し、販売した軽油の総量は2万1638キロリットルで、仕入れた量の2倍近い軽油を販売していたと認定。
また、3月から9月までの期間に壱商が仕入れ価格より安い価格で三笠に軽油を販売していた事実から、販売した軽油は仕入れた課税済み軽油に不正に灯油を混入した、いわゆる不正軽油であったと認められる、と判断。
壱商が正規の元売り業者から出荷された3号軽油を三笠に納入したことを裏付ける証拠はなく、さらに3号軽油の適合気温はマイナスセ氏15─20度とされ、三笠の事務所は山間部だが軽油が凍結することはなく、壱商は不正軽油を納入していたといわざるを得ない、と断じた。また、取引明細書には8月に購入した燃料の取引先として記録されているのは壱商のみで、同期間中、壱商以外の販売業者が存在していたとはいえないとした。
その上で、「壱商は平成20年7月21日以降に三笠に販売した軽油が不正軽油であったにもかかわらず、通常の軽油であるかのように装って軽油を購入させたもので、これは詐欺にあたる」とし、売買代金債権に係る請求を認めた奈良地裁判決を取り消して、壱商の請求を全面的に棄却する判決を下した。
三笠の中尾社長は「運送会社は不正軽油を買っても運んでもダメであることを再認識し、業界から不正軽油を追放していかなければならない」と訴える。
訴訟を担当した松森・高江法律事務所の松森彬弁護士は「不正軽油は禁制品で流通してはならないが、刑事罰が徹底されているとは言えず、販売者と行政のいたちごっこが続いている。今回の判決は『不正軽油に商品価値はない』と判断したもの」とコメントしている。(大塚 仁)
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