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ブログ・馬場 栄
第134回:定額残業制を導入するには(2)
2018年6月7日
前回は定額残業制を導入する上での形式上の注意点についてご案内しました。しかし、定額残業制を実施するのであれば、運用まで完璧に行わなければ、近年は裁判では否定されてしまうのです。とりあえず形式を整えておけば大丈夫とお考えの会社は大変危険ですので、すぐに会社の実態を見直す必要があります。
定額残業制の運用については、2012年に、ある裁判官から重要な意見が出されており、以後、裁判では、その意見に従い判断が下されることが多くなりました。その意見は定額残業制を導入するには、次の要件を満たしていることが必要との内容でした。①雇用契約書等の書面にてあらかじめ支給する残業代金額とみなし時間数が明確に記載されていること。②給与明細にあらかじめ支給する残業代の時間数と金額が記載されていること。③あらかじめ支給する残業代の時間数を超えて残業を行った場合は、差額の残業手当を支給すること。
①と②の要件であれば、形式上の問題であり比較的容易に対応することができるかもしれません。しかし、③の要件は実際の労働時間をカウントして、あらかじめ支給する残業代の金額が、実際の支給すべき残業代と比べて不足がないか確認を行う必要があります。さらに、不足があれば差額の残業代を支給する必要があります。このように運用上でも注意を行う必要があり導入のハードルが格段に上がるのです。定額残業制を導入している会社でも③までは行っていないという会社も多くあります。しかし、この裁判官の意見によると、この時点で定額残業制が認められないのです。
運送業の場合、歩合給についで定額残業制を導入している会社が多いと感じます。ただし、実態として厳密な運用管理を行っている会社は、まだまだ少ないと感じます。裁判官の意見に法的拘束力はないのですが、この補足意見を反映してか、最近は定額残業制に関する厳しい裁判例が増えています。定額残業制を導入する場合、形式上のみでなく、厳密な運用も必要になってくるのです。
(保険サービスシステム株式会社・社会保険労務士・馬場栄) -
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筆者紹介
馬場 栄
保険サービスシステム株式会社 社会保険労務士
年間約300社の経営者の相談・アドバイスを行っている。中小企業の就業規則や残業代など、幅広い労務管理のアドバイスに高い評価を得ている。 -
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