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ブログ・花房 陵
10.IFRSが物流現場にやってきたら、どうなるの?<生疑問とその回答>
2010年11月25日
IFRSの物流影響をテーマにしたセミナー、今月実施しましたが多くの質疑をもらいました。かなり切迫した感じで受け止められているようです。
・ 着荷基準計上に判取りの証が必須となると検収基準となり、計上タイミングが遅くなりますか?
A:納品物の到着ではなく、先方の受領確認、検収後によって収益認識5つの条件が成立しますから、当然輸送リードタイム分が従来の売上計上日から遅れることになります。単なる日付のズレだけでなく、債権の移転が完了したことを証明、証憑確認できなければなりません。・ 出荷基準を着荷基準に変更する場合、到着するだろう推定の日数を加算するだけのみなし日付で問題はないか?
A:’みなし’とは実態と合わない場合も想定していますので、原則不可と指摘されるはずです。ただし、例外事象が限定的だったり、意図や恣意性がなければ実務上は日付加算も認められるでしょう。その際、データ修正ではなく、別日付であることの記録を残さねば改ざんと見なされてしまいます。・ 着荷基準の証明をオンラインデータ交換で実施することは問題ないか?これを業界単位でまとめる活動は法的問題にならないか?
A:重要な証憑を電子化だけですますには、課題が多いです。およそe文書法があるにも関わらず、税務署や国税庁の見解は当該地域統括官の判断に依るからです。事前相談を求めることと、文書法についてのノーアクションレター制度を利用して齟齬のないように調整作業が必要でしょう。業界団体で標準ツールを開発、利用、運用することの是非は本件とは無関係ですが、念のためには上記の一連として照会しておいた方が無難でしょう。・ 親会社が上場公開企業の場合、IFRS適用を強制されるか?
A:IFRSの強制適用はグループ企業での連結決算時における運用が設定されています。貴社との関係性が判定条件ですので、連結対象なのか否かの判断は経営方針によります。・ 物流業務を上場物流企業に委託する際、荷主側の留意点は何か?
A:IFRSは自社の財務報告の書式をいっていますので、利用者側の負荷は一切生じません。ただし、物流料金の設定タイミングが貨物の出荷時から到着時になどの条件が出てくると思われます。・ 取引の多くが消化仕入れになっているが、留意点は何か?
A:委託品、消化仕入れ商品は正規の販売とは売上条件が分かれますので、取引区分を付加するか伝票様式の変更が必要になります。委託預けは貸し出し、振替処理となります。・ 検収伝票の回収、保管、確認はどのように行うか?現在はほとんど一任している。
A:漏れなく確実に回収サイクルを整備する必要がありますが、通常は運輸と物流管理との間に取り決めが必要です。見える化して証憑管理の業務を定義しなければなりませんね。保存年限の指定をしなくては増えるだけで管理が複雑になります。・ 返品処理で伝票を用いないで行う場合はどうか?返品も当社への着荷基準なのか?
A:売上返品、仕入れ返品共に債権の確実な移動が収益認識になりますから、到着基準に変更となります。貨物先行で事後の伝票でも構いませんが、債権債務の照合作業は欠かせません。・ 業種業界ごとの検収基準の考え方はどうなるか?
A:会計士協会で見解を出しています。確定厳守ではありませんが、動向は注視しておいてください。・ 通信販売のクーリングオフ適用はどうするのか?
A:クーリングオフは消費者保護法ですので、発生時には売上返品となるはずです。発生率が恒常的に高いと見なされれば、決算期の売上額から控除される場合も想定できます。通常月との比較資料が必要です。・ IFRS適用企業は、物流企業に何を求めているか?
A:今回の講習での総括なのですが、契約条件に伝票処理や債権の移動、評価方法などの詳細を加味する必要があります。監査対応という条文の追記になります。・ 輸送途上の在庫証明はどのように行うのか?
A:輸送責任が明確になりますので、保険の明細証明をもって代用することになるでしょう。ただし、業法では倉庫証券しか運用上制度がありませんので、輸送証明が財産権の証拠となるかはノーアクションレター制度を利用して確認してください。・ 物流企業の料金清算方法は実施日付になるのか?31日作業は当月、それとも着荷日付(来月)か?
A:料金の確定時期は交渉条件になるはずです。輸送責任の定義と義務者を明らかにする手順が必要でしょう。・ 運賃の請求タイミングはどうなるか、着荷基準なのか?
A:上記と同類の作業によって確定するべきものとなります。・ 資産除去債務の算定では、耐用年数、契約年数によって配賦する方法は?また契約の自動更新が発生した場合には、配賦計算方法は変わるのか?
A:費用は当期計上、負債は減価償却を行いながら通期で計上するものです。資産除去費用は経費、債務として見なしますので、毎期毎の算定が必要になります。・ 商品在庫の評価方法は、低価法だけになるのか?公正価値(時価評価)の算定根拠は?
A:税法との関連がありますので確定してはいませんが、原則は時価=再販売、再取得価格ですのでこれに準ずるとして、従来のような多様な原価計算方法は単純化されるはずです。・ 賃貸している物流施設の資産評価は、貸す側、借りる側でどう変わるか?
A:保有資産の評価が問題ですので、貸し主は時価評価、借りる側は影響ありません。付帯設備がある場合には原状回復義務がどちらにあるかによって、資産除去債務を計上することになります。・ IFRSを物流営業に組み入れるにはどうするか?
A:会計制度の変更に伴う不安や未整備が指摘されています。コンプライアンスやリスクマネジメントを徹底できる物流サービスは大いなる営業差別化につながります。多様な契約条件と料金、サービスの展開をアピールすることで様々な荷主への多様的な物流サービスを提供することをテーマとされるのが良いでしょう。 -
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筆者紹介
花房 陵
イーソーコ総合研究所 主席コンサルタント
コンサル経験22年、物流から見た営業や生産、経営までをテーマに 28業種200社以上を経験。業種特有の物流技術を応用して、物流 の進化を進めたい。情報化と国際、生産や営業を越えたハイブリッド 物流がこれからのテーマ。ITと物流が一体となる日まで続けます。 -
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