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  • ブログ・川﨑 依邦

    経営再生物語(145)開拓力の発揮〈事例A〉

    2017年3月2日

     
     
     

     〈受け身姿勢で過ち〉


     この事例から学ぶべきことは何か。それは、A社の荷主に対する全面依存、全面従属という、受け身姿勢の過ちである。「荷物はいつもある。荷物の量が少ないのは、荷主のせいである」。しかも、開拓力のなさである。新しい物流会社に対する姿勢が示している。「手を引け」とは、ヤクザの言葉みたいではないか。縄張りを自分勝手に決めている。荷主のニーズは関係ない。自分の都合が優先である。A社の経営体質は受け身、従属である。ここが問題である。
     新任の物流担当者に取引中止を通告されたA社トップ。目の前が真っ暗とはこのことだ。創業以来のピンチ、廃業が頭にチラつく。「今までこんなに尽くしてきたのに、何たる仕打ちか。鬼だ。この世には、神も仏もない」。荷主に対する恨みが、ひしひしと心を占める。
     ヤケクソの日々。酒びたりが続く。通告されて1か月がたったころ、いつものごとく深酔いして、フラフラと自宅に帰る。そこへ妻が出迎える。
     「お父さん、今こそしっかりしてください。荷主がなくなったぐらい、何ですか。お父さんには家族もいるし、従業員も車も残っているではないですか」。きつい妻の一言である。
     A社トップは全従業員を集めて、この間の事情を説明した。あと2か月で荷主の仕事がなくなること、次の荷主の当てもないこと、このままでは廃業の道しかないこと—-。そして宣言した。
     「わたしは、一から出直すこととした。創業のときもゼロからだ。この2か月間で、必死に次の仕事を探す。荷物の良い悪いは言わないでほしい。荷物に良いも悪いもない。とにかくわたしに付いてきてほしい」
     かくして、A社トップの荷物獲得活動が始まった。同業者にも、なりふり構わず頼みに行った。特定荷主の仕事をしていた経験を生かして、着荷主のところを一軒一軒訪問した。必死の日々。開拓力の発揮である。
     「特定荷主におんぶにだっこで、ノホホンと生きてきたことがよく分かりました。運んでやっている、とのオゴリもありました。一つひとつの荷物を大切に扱う心が、いつの間にか枯れていたのです」
     A社の乗務員にも、危機感が芽生えた。今までのような働きでは、荷主の満足は得られない。どうせなくなるからといって投げやりになっては、荷主にすまない。心を込めて働こう。こうした機運が生じてきた。廃業のピンチにさらされて、前向きの一体感が生まれてきたのである。A社はピンチを脱することができた。何とか、当面の仕事を確保することができたのである。

     
     
     
     
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  • 筆者紹介

    川﨑 依邦

    経営コンサルタント
    早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
    63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
    中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
    グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。

    株式会社シーエムオー
    http://www.cmo-co.com

     
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