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ブログ・川﨑 依邦
経営再生物語(186)心のバトンタッチ〈事例A〉
2018年4月10日
〈後継者への難題〉
「わたしは26歳の時から社長をしてきて40年、そろそろ引退したいよ。潮時かも知れん」A社長のつぶやきである。A社長は体ひとつ、文字通りの徒手空拳で創業のスタートを切った。業種は運送業。今では年商30億円の中堅優良企業としての地歩を固めている。いま、A社長の心をかき乱すものに後継体制問題がある。
①税務調査
A社は株式未上場であるが、顧問税理士の試算によると、株価は薄価の20倍とのこと。相続税の問題がある。株式の95%をA社長が所有している。「汗水たらして働いてきて、いよいよとなって、相続税がズシンとくるとは辛いことよ」︱︱A社長の嘆きである。その上、税務調査が入って追徴課税がくる。その額、2億円。「つくづく働くのがいやになる。利益を上げても税金に持っていかれる」。税負担が重くのしかかる。しかし、税務署にはかなわない。利益が出たら税金を払うしかない。ここにきてA社長の経営者としての意欲に水を差されている。「働いて働いて、一体どんな人生だったのだろうか︱︱」
②息子
A社長には30歳の息子がいる。一流私立大学を卒業し、商社勤めを経験して5年前に入社してきた。たたき上げのA社長からみれば、どうしても食い足りない。苦労が足りない。お金の苦労も人使いの難しさも知らない。「これで大丈夫か」。どうしても不安が付きまとう。30歳であるが、一人前として扱う気にならない。ヨチヨチ歩きにみえてくる。
息子は大学在学中に1年間、アメリカ西海岸のロサンゼルスに留学していた。語学ができる。商社時代にさらに磨きをかけた。いわばエリート人生を歩んできた。そのことがA社長にとっては心配の種である。
乗務員の気持ちが分かるのだろうか。乗務員をうまくやる気にさせるだろうか。息子はA社長の前では直立不動である。顧客と一緒に会食していてもA社長の背広を真っ先に脱がせて奉仕する。顧客にはそこまでしない。「実に礼儀正しい息子さんですね」と褒め立てられる。うれしい面もあるが、A社長の胸中は複雑である。「そんなことより、もっと仕事をしろ」「息子は後継者として適任か」︱︱自問自答の日々が続いている。
経営者に必要な資質は何か。それは判断力である。その決断について全責任を負う覚悟である。逃げ場をつくらないことである。ハラをくくることである。40年の経営者人生での教訓でもある。ヤクザとのつきあいもある。ヤクザにならず、巻き込まれもせずに、どうしてつきあうか。それは弱みをみせないことである。常に優位な立場にいることである。こうしたノウハウは口で教えられるものではない。体で覚え込むものである。
果たして息子はそこまでやれるか。全責任をかけての決断の場に逃げずに踏みとどまるハラがあるか。
③事業承継
A社長は事業承継を70歳までに完了する決意を固めた。相続税対策として、筆者に経営相談をした。
「税金を安くすることはできるが、難しいのは、経営者魂を息子に相続することだ。一つ相談に乗ってほしい」
この記事へのコメント
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筆者紹介
川﨑 依邦
経営コンサルタント
早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。
株式会社シーエムオー
http://www.cmo-co.com -
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