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ブログ・川﨑 依邦
経営再生物語(203)生きつづける精神〈事例A〉
2018年6月25日
〈運命に抗する誓い〉
商圏である荷主は、運送業の代わりはいくらでもいる、と高をくくっている。会社の財産がない。これといって、確かなものがない。むしろ借金の重圧。働いても働いても、残るものは借金ばかりである。土地は借地、車もローン、事務所も賃貸、まさに行き詰まり。体力が財産で、その体力の衰えとともに、消えてなくなるしかないのか。
企業運営の目的をどこに定めるか。収益を確保することは当然である。もっと大事なのは、永続ということである。創業者がいて、2代、3代と続いても、いつしか消えてなくなるのが中小企業の一般的な必然であり、運命である。運命に抗して、永続するコツは何か。それは、〝変革する志〟を発揮することである。
「倒木更新」という言葉がある。朽ち果てた大木の幹の木肌に種子が根付いて、元の木から水分の供給を受けて、立派な成木として成長を遂げる、自然界の姿をいう。
北海道に生えているアカエゾマツの場合、老木の倒れた上に、「一列にアカエゾマツが育っている」と言う。種の持続である。企業の生命に置き換えてみると、企業を担う個体は消えていくが、精神は引き継がれていく︱︱ということである。精神とは、経営理念のことである。経営理念の確立によって、人が育つと言える。
創業50年にして、先行きに暗雲が色濃く立ち込めているA社。2代目夫婦は決意した。とにかく続けよう。わたしらの代で終わり、では申し訳ない。企業の変革にチャレンジして、倒木更新を成し遂げよう。そこで経営理念を明確化し、人材育成の風土づくりに取り組むこととした。夫婦でじっくりと話し合った。
「お父さんは今まで、どんなつもりで経営をしていたの」
「それは、お得意先に尽くしたい︱︱ということかな。今まで、あらためて考えたことはないけれど〝荷主第一〟が根本かな。それより、お母さんはどんなつもりでわしに付いてきたのか」
「家業ですからね。付いていくしかなかったのよ。わたしらの代でつぶしたくない、という気持ちが強いわね。家業がつぶれたら夜逃げするしかないし、〝家庭平和〟のためにも頑張ってきたということよ」
「なるほど、家庭平和か。今まで、本当にありがとう。感謝しているよ。オヤジから引き継いだ運送業、この仕事は、社会の役に立っている。運送屋がいなければ、運ぶ人がいなくなる。社会の役に立っている。〝社会貢献〟しているわけだ」
夫婦でじっくりと話し合って、経営理念として3つの誓いを立てた。荷主第一、家庭平和、社会貢献︱︱の3つである。そして〝可能性にチャレンジしよう〟とのスローガンを掲げた。ダメだダメだと思うよりも、生き抜くのだ、との強い思いをもって〝可能性にチャレンジすること〟だと、姿勢をシャキッとさせた。
(つづく)
この記事へのコメント
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筆者紹介
川﨑 依邦
経営コンサルタント
早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。
株式会社シーエムオー
http://www.cmo-co.com -
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