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ブログ・川﨑 依邦
経営再生物語(211)捨て身の話し合い〈事例A〉
2018年8月13日
〈光明はあるか〉
経営会議の議題は、荷主からの10%値引きについてである。メンバーは社長、経理(社長の奥さん)と配車係、そして筆者。荷主との付き合いは、かれこれ20年になる。A社長(40歳)は2代目である。配車係は55歳で先代からの古参幹部である。
社長「10%の値引きをOKすると会社は赤字になります。この荷主の配送業務に車両台数30台、正社員15人、契約社員15人で対応しています。別の仕事をしている車もありますが、この荷主の運送収入が全体の60%を占めています。1回目の6%の値引きは、他の部門の仕事でカバーできましたが、続いて10%となるとお手上げです」
経理「資金繰りは苦しくなっています。社長の月額報酬150万円を100万円に下げています。車30台の購入資金として借り入れをしましたが、およそ5000万円残っています。今までも、できるだけ正社員を採用せずに契約社員で対応してきましたが、もうギリギリのところまで追い詰められています。わたしの給料も40万円から20万円へと、半分にして何とかしのいでいます」
配車係「今回の10%の値引きもOKするとなると、もはや正社員の給料ではやっていけません。月額25万〜30万円の水準を維持することはできません」
この荷主からの仕事を撤退するとなると、5000万円(車両購入にかかわる借入金)をどうするか。15人の正社員はどうするか。15人のうち5人は勤続20年のベテランドライバーで、A社長としては学生の頃からの知り合いである。
情がからんでくる。不採算だからといって簡単に切って捨てるわけにはいかない。苦しまぎれに10%の賃金カットを一人ひとりに申し入れても、その場限りである。
展望が見えてこない。大きな壁にぶつかっているようなものだ。それに、この荷主の仕事をしている同業の運送業者も、じっと出方をうかがっている。パイの取り合いである。誰かが投げ出せば「待ってました」と食いついていく態勢をとっている。我慢比べに入っている。
その上、A社には労働組合がある。簡単に人員整理をできる状況にはない。不採算だからといってクビということにすれば、労働争議となる。それこそ会社はパーとなる。労働争議からストライキにでもなると、荷主との信頼関係もなくなる。会社がパーとなるとは、つぶれるということである。
A社長「わたしは2代目としてオヤジから引き継いだこの会社をつぶすわけにはいかないのです。労働組合も、それなりに今まで協力してきてくれています。6%の値引きの時は定期昇給ゼロで妥結し、一時金(賞与)も前年比30%減で妥結しました」
筆者いわく「事業の目的は利益を上げて企業を継続させていくことにあります。不採算の事業は、改善の見込みがなければ、やるべきではないのです。この荷主の仕事で採算を確保しようとすると、契約社員の体制を強化しなければなりません。人件費の負担が重いのです。率直に、この状況を労働組合に公開して企業を存続させるかどうか、存続させるためにはどうすればいいか、トコトン話し合うことです」
(つづく)
この記事へのコメント
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筆者紹介
川﨑 依邦
経営コンサルタント
早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。
株式会社シーエムオー
http://www.cmo-co.com -
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