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ブログ・川﨑 依邦
経営再生物語(226)初心忘るな盆踊り〈事例A〉
2018年12月24日
〈自殺も考えた社長〉
A社は地域に密着している運送会社である。社長は裸一貫から、のし上がってきた。「苦労の連続だった」という。人で苦労してきた。「これは」と思って信じて任せてきた配車係に、あっさりと逃げられてしまったこともあった。ライバル会社に引き抜かれたのである。A社長は深く落ち込みながらも、その都度、立ち直ってきた。逃げた配車係は、荷主まで一緒にさらっていった。こうしたピンチにも動じることなく乗り切ってきた。
現在の従業員は100人(車両台数80台)。中型運送会社として地歩を固めている。創業20年。社長は資金繰りの苦しさから、自殺すら考えたこともあるという。有力荷主の一つが倒産して、不良債権を抱えた時のことである。どうにも金策がつかない。駆けずり回ってもダメ。「もうダメか」とガックリしている時、公園が目に入った。
フラフラと公園に入り、ベンチに座り込む。その時、1本の木が目の前にあるのに気付く。「ここで首つりでもしたろうか」。意気消沈して家に帰り、妻に言う。「ニッチもサッチもいかない。もう、どうしていいか分からない」。すると、妻いわく「何を言っているのよ。わたしが残っているじゃないの」。この一言で社長は、気力を奮い起こしてピンチに立ち向かい、乗り越えてきたという。
A社は、ここ10年ほど連続して、夏に〝盆踊り〟を企画・実施し、地元の人の楽しみの一つとなっている。A社長は、いろいろな苦しいことがあっても、この盆踊りで一緒に踊ることを楽しみにしてきた。
社長は思いきって、盆踊り開催のための費用を全額負担するのである。地元の人は感謝している。A社長は盆踊りを目指して、いつも頑張ってきた。夏の一夜のきらめきを励みとしてきた。妻も理解している。「道楽しないお父ちゃんの、たった一つの道楽や。好きなようにしたらいい」
この日のために毎年、全従業員に真新しい浴衣をプレゼントする。一人ひとりにサイズを確かめて贈る。夏の賞与の一種とでも言えようか。真新しい浴衣を着て、従業員は盆踊りに参加する。家族連れで、子どもの手を引いてくる者もいる。夜店が出る。金魚すくい、タコ焼き屋、リンゴあめ屋……。
A社長は、この夏の一夜が好きである。「今年もなんとか盆踊りを迎えることができた。本当に有り難い」と、しみじみかみしめる。
地元の人や、従業員の明るい顔を見て、心からうれしさを感じる。自殺を考えた日も夏だった。妻の一言で気力を奮い起こして東奔西走の日々、盆踊りの夜にぶつかった。「オレもいつかは、あの盆踊りの輪の中で楽しみたい」。この原点を毎年夏、盆踊りで確認している。
この記事へのコメント
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筆者紹介
川﨑 依邦
経営コンサルタント
早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。
株式会社シーエムオー
http://www.cmo-co.com -
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