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ブログ・小山 雅敬
第215回:時間外割増賃金率が上昇するとどうなる?
2021年9月21日
【質問】数年後に残業時間の割増賃金率が上昇する予定と聞いていますが、運送業の経営に対する影響や準備事項などを教えてください。
2010年の労基法改正により、残業時間が60時間を超えた段階から割増賃金率が25%から50%に上昇することが決まっており、中小企業は長年適用を猶予されてきましたが、いよいよ、2023年4月から適用されることになりました。
例えば、固定給30万円、月間所定労働173時間、残業100時間の会社の場合、2023年4月以降は、30万円÷173×1・25×60≒13万円が残業60時間に対する割増賃金となり、30万円÷173×1・50×40≒10・4万円が残業60時間超の部分(100—60=40)に対する割増賃金になります。残業代は合計23・4万円となり、賃金の総支給額は30万円+23・4万円=53・4万円となります。一方、歩合給30万円の会社の場合は、30万円÷総労働時間(173+100)×0・25×60≒1・6万円が残業60時間に対する割増賃金となり、30万円÷273×0・50×40≒2・2万円が残業60時間超の部分(40時間)に対する割増賃金になります。残業代は合計3・8万円となり、賃金の総支給額は30万円+3・8万円=33・8万円になります。
賃金体系が固定給か歩合給かにより、要支給額に大きな違いが生じますが、いずれにしても人件費負担が増加することになります。なお、割増賃金で支給する方法以外に、割増賃金率の増加部分(25%)について、有給の代替休暇に置き換える選択肢もあります。前述の例で計算すると、40時間×割増賃金上昇率(0・5—0・25)=10時間のうち8時間を代替休暇一日に充当することが可能です。この場合、余りの残業8時間分(40h—32h)については割増賃金で支給する必要があります。労使協定の定めにもよりますが、代替休暇の取得可否や取得時期などは社員の判断となり、会社に時季変更権はありません。代替休暇取得は2か月以内であり、取得できない場合は割増賃金で支給します。代替休暇は半日単位か一日単位となり、余った残業時間分は割増賃金の支給が必要です。かなり煩雑な管理と計算を要し、かつ人手不足に苦しむ中小運送会社では、代替休暇を利用する会社は限られるでしょう。
2024年の時間外労働上限規制も控えており、残業時間の抑制は待ったなしの状況です。2023年と2024年の大きな激変期をどう乗り切るのか、遅くとも来年までに本気で対策を検討する必要があります。
(コヤマ経営代表 中小企業診断士・日本物流学会会員・小山雅敬)
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筆者紹介
小山 雅敬
コヤマ経営
昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。 -
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