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ブログ・野口 誠一
第4回:倒産を恐れよ
2004年1月13日
「ご無沙汰しています」と言って、彼は私に名刺を差し出した。私が講演に赴いた会場のことである。初対面でもないのに名刺なんか・・・といぶかりながらも、私はそれを受け取った。が、次の瞬間、ひょっとして彼は会社を潰し、職業を変えたのでは・・・と思い直し、名刺の字面に目を落とした。
が、変わっていない。内心ホッとしたところへ、彼が「会長、その名刺の通りです。今は何もありません」と言葉を足した。私はすぐにピンときた。
彼が赤字だらけの帳簿を抱え、八起会へ相談に来たのは三年ばかり前のことである。そのとき彼が差し出した名刺の賑やかさに、私は内心呆れた。町内会やPTAの役職にはじまり、商工会や諸団体の名誉職が名刺の裏表にびっしりと印刷されていたのである。
「こんなに役職が多くては、経営に身が入らないでしょう。その証拠がこの帳簿です。これでは早晩潰れますよ。経営をなめてはいけません。片手間にできることではないんですから」。
いささか厳しいとは思ったが、私はそう言わざるを得なかった。そのうえで公認会計士も交え、三者で経営改善計画を作成した。それが奏功したのであろう。危ないと思われた彼の会社は今なお存続し、彼の名刺の肩書はたった一つ「代表取締役」だけである。
「よく頑張りましたね。おめでとう」。そう言って私は彼に手を差しのべた。その手を握り返しながら、彼が言った。「会長に『倒産を恐れよ』『倒産は生き地獄だ』と言われたあの言葉が頭にこびりついて、恐ろしくて、恐ろしくて・・・。それで必死に頑張りました。今もその心に変わりはありません」。
私はうれしかった。こういう言葉が八起会を支えていると言っていい。その日から、私は声を大にして「倒産を恐れよ」と言ったり書いたりしている。この記事へのコメント
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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