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ブログ・野口 誠一
第124回:再起の群像 「踏切で自殺」
2007年4月1日
事実は小説よりも奇なり、という。倒産の悲劇は、まさにその「奇」の寄せ集めと言っていい。そしてその表情も千差万別である。
連鎖倒産を余儀なくされたUさんは、しばらく残務整理に忙殺された。そんなある日の夕方、債権者まわりでヘトヘトに疲れ果て、いったん帰宅した。と、家の中が足の踏み場もないほど荒らされている。その中に家族がへたり込んでいた。小学校に上がったばかりの娘が背中を丸めて泣いている。
数人の債権者がトラックで押しかけ、換金できそうなモノを根こそぎ持ち去ったという。その中には娘のピアノもあった。入学したら買ってやるとの約束で、ようやく手にした夢のピアノだった。買ってまだ1年も経っていない。そのピアノにしがみつき、「持っていかないで」と泣きじゃくる娘を邪険に突きとばし、強引に持ち去ったという。
もしや…とイヤな予感に襲われ、工場に駆けつけてみると案の定、新しい機械はもとより、その他の設備も在庫もことごとく持ち去られ、工場はもぬけの殻になっていた。言いようのない悔しさと絶望に襲われ、Uさんはその場にへたり込んだまま動けない。
どのくらい時が経ったろうか、やがてUさんの心にふつふつと怒りが煮えたぎってきた。いままで誠実に取引してきたではないか。すでに資産はすべて公開したではないか。なのにこの仕打ちはなんだ。こんなんで生きていられるか…真っ赤な怒りの塊が込み上げてくる。その塊に背中を押されるように、Uさんは車にとび乗って夜のヤミのなかへ突っ込んで行った。そして、とある私鉄の踏切に車を止め、エンジンを切った。
間もなく電車があの世へ運んでくれる。それで何もかもおしまい。楽になれる…Uさんの心には逡巡も恐怖もなかった。そして静かに目を閉じた。この記事へのコメント
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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