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ブログ・野口 誠一
第131回:再起の群像 消えた「焼け火箸」
2007年5月24日
倒産によってすべての財産を失ったYさんは、奥さんと1人娘の3人で6畳1間のアパートに転がり込んだ。すぐにも生活費を稼ぐべく働かねばならないのだが、どうにも体が動かない。倒産者が1度は襲われる虚無、虚脱状態である。そんなある日、奥さんと娘さんのひそひそ話から、娘さんの奨学金まで生活費に化けていることを知ったYさんは、翌日から早速かつての受注先をまわり、仕事さがしを始めた。もともとYさんには技術があり、就職先はすぐに決まった。
しかし、1度は「社長」と呼ばれた者にとって、他人に使われることほど辛いものはない。Yさんも例外ではなかった。毎日が焼け火箸を呑むほどに辛い。が、Yさんは「娘の奨学金にだけは手をつけまい」の一心で踏ん張りに踏ん張った。
そんな日々が数か月流れたある日、Yさんの心にふっとある疑問が湧いた。自分は倒産したのに、なぜここの社長は倒産しないのか、その疑問である。その日からYさんの社内ウォッチングが始まった。そして痛切に思い知らされた。
ここの社長は明確に自社の将来ビジョンを描き、そこに至る計画を具体的に示している。Yさんはショックを受けた。自分の経営とはあまりにも違いすぎる。自分の視野にあったのは見栄と儲けだけではなかったか。自分の経営には計画も目標もなく、ただの行き当たりばったりではなかったか。その思いが痛烈に突き上げた。
そこがYさんの反省の起点となった。と同時に、いままでの焼け火箸がいつの間にか消え失せ、勤め人であることが苦にならなくなった。Yさんが八起会を知ったのは、その頃である。もう一度経営のありようを見詰め直したい、できれば再起を目指したい、その思いに駆られ、Yさんは八起会に入会し研鑽を続けていく。 -
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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