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ブログ・野口 誠一
第141回:再起の群像 人間関係からの孤立
2007年8月7日
打ち続く不幸と幽囚生活に、Nさんの精神が次第に蝕まれていく。あとでわかったことだが、かなり重度の鬱病に罹りつつあったのである。
Nさんもその変調には、うすうす気付いていた。体は鉛のように重いし、他人と話すのは苦痛だし、皿を洗いながらも頭の片隅を死の影がよぎっていく。が、いかに苦しくても金はない、健康保険もないでは、医者にもかかれない。
Nさんから急速に尋常さが失われ、暗い危うい雰囲気が漂っていく。辛くもNさんの自殺を食い止めたのは、皮肉にもタコ部屋暮らしと子供たちの絶縁状だった。
延べ10時間に及ぶ立ちっ放しの皿洗いに疲れ果て、寮に戻れば同僚たちの眼があり、ただ泥のように眠るしかない毎日がNさんを救った。そして夢に出てくるのは「お父さんは、ぼくたちを捨てた」と泣く子供たちの恨めしそうな顔であり、その顔がNさんを「なんとしても子供たちに仕送りしなければ」と奮い立たせた。
そして2年余りが過ぎた。Nさんはようやく借金を返し終わり、タコ部屋から解放された。しかし、そのときNさんは廃人も同然だった。
その後、なんとしても子供たちに仕送りをしなければ…その一念で、Nさんは死にものぐるいに働いたが、住民票もない、保証人もないでは、まともな仕事などない。パチンコ屋の店員、興信所の探偵、ハンドバッグのセールスマンと、職を転々と変えていくが、どれも長続きしなかった。
元経営者に勤まるような職種でなかったこともあるが、大方の原因は、人間関係の躓(つまづ)きにあった。1円の無駄遣いも許されないNさんは、同僚との付き合いを避け、同僚もまた鬱病からくるNさんの暗い雰囲気を嫌い、いつしかNさんは仲間から浮き上がっていたのである。 -
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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