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ブログ・野口 誠一
第161回:加熱する土地バブル
2008年3月21日
いったん付き合ったが最後、銀行は臆面もなく押しかけてくる。Hさんもそのペースに乗せられていく。はじめは融資の押し売りだったが、やがて「社長、いい土地がある」「この土地は買ったほうがいい」「あの土地は買い得だ」と、土地の押し売りが始まった。
しまいには銀行自身が土地、造成、建築まで手配したうえで、「社長、あんたはここにハンコを捺すだけでいいんだ」というまでにエスカレートしていった。
こうして銀行が不動産屋に化け、不動産屋がハンコを捺すだけという本末転倒がまかり通っていく。
のちにHさんが「銀行の不良債権は、銀行が自らつくったものだ」と毒突いたが、無理もない見解というべきであろうか。
ともあれ、こうしてHさんは銀行にリモコン操作され、ハンコを捺すだけとなっていくが、利益は確実かつ山のように積み上がっていった。ある日、記帳してみたら預金残高の桁が1つ増えていた、などということも珍しくなかった。
つまり、土地さえ手当てできれば誰でも儲かったのである。上屋を建てるのが面倒くさければ、あるいは上屋を建てても販売が面倒くさければ、そのまま同業他社へ転売すればいい。
それだけで5億円のものが10億円に、10億円のものが20億円に化けた。わずか2、3枚の転売書類が5億、10億円である。
これでは、ただの地上げ屋にすぎない。そこへ銀行が湯水のごとく金を突っ込んだのだから、日本列島全体が土地バブル漬けになったとしても不思議はない。
こうした異常事態が数年続く。金魚が自分を水槽の中とは気付かないように、銀行も企業も経営者も、誰一人として自分たちがバブルの中とは気付かなかった。
むろん、Hさんもその一人である。が、バブルはいつか必ずはじける。そして、それは目の前に迫っていた。 -
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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