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ブログ・野口 誠一
第168回:大手の攻勢で倒産
2008年5月9日
A電気は系列販売店から、ひそかにKさんのノウハウを聞き出し、そっくり同じデータベースをつくり上げた。いわばコピーも同然である。
それをメーカーの威光をかさに、系列販売店へはめ込みはじめた。それも販促費にモノを言わせて3割引き、5割引き攻勢である。これにはコスト的に太刀打ちできるはずもなく、Kさんは次々にユーザーを失っていく。
大手の横暴でもあるが、資本の論理でもある。このとき、Kさんに残された選択はギブアップしかなかったかもしれない。
しかし、経営者にとって会社を潰すことは死ぬより辛い。Kさんは新しいソフトとユーザーを求めてなおもがく。が、すでにバブルははじけ、深刻な不況下とあってはどうにもならない。
赤字がかさんでいく。サラ金に走る。街金に手を出す。Kさんもお定まりのコースをたどり、ついに平成7年、万事休す。足かけ17年間の経営であった。
が、Kさんはよくよく「人儲け」の達人である。この土壇場でも人に救われる。
夜逃げを決意し、顧客データを事務所から他へ移しているところへ、ビルのオーナーが現れた。散らかったオフィスにオーナーが驚く。
Kさんは包み隠さず事情を打ち明けた。このとき、Kさんは警察に突き出されても仕方のない身だった。なにしろ2年間、400万円もの家賃をためていたのだから。
しかし、オーナーの口から出た言葉は思いがけないものだった。「家賃なんか、どうでもいいからすぐに逃げなさい。相手は街金融だ。つかまったら何をされるかわかりませんよ。ここは私のビルだから誰にも指一本ふれさせません。私に任せて早く逃げなさい」。
「地獄で仏」とはまさにこのことである。Kさんはその仏に手を合わせ、涙ながらに逃げた。 -
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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