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ブログ・野口 誠一
第171回:開発事業で資産激減
2008年5月30日
平成4年、Sさんは長年務めた中堅不動産会社の役員を辞し、自前の不動産会社を立ち上げた。52歳のときである。
すべり出しは上々で、2年目に社員40人、3年目に70人、支店も2か所開設し、急成長を遂げていく。
その要因はSさんの経営手腕もさることながら、仲介事業から開発事業へのシフトが大きかった。自前で土地を手当てし、住宅を建て、販売すれば、当然ながら収益は格段に向上する。が、皮肉にもその開発事業が倒産の遠因となっていく。
開発事業は莫大な資金を要する。資金繰りがうまくいっている間はいいが、いったんひっ迫するとたちまち苦境に立たされる。それがやってきた。
バブルの崩壊が資産デフレを誘発し、不動産関連はまっさきに不況の波に洗われていく。
やがて銀行は貸し渋りから貸しはがしに転じ、融資が完全にストップしたSさんは、毎日毎日、冷たい汗をかきながらノンバンクをかけずりまわる。
が、その間にも手持ちの土地価格は毎月3%ずつ下落していく。居ても立ってもいられないが、どうにもならない。
Sさんは手形の乱発とジャンプでしのごうとするがすでに手遅れ、発行した手形は街金融に割引かれる状態になった。
最初の不渡りをだしたとき、案の定、街金融が大挙して押しかけてきた。社内も自宅も騒然となるなかでSさんは混乱し、途方にくれ、そして最後の手段に訴えるしかないことを悟った。自殺である。
その夜、Sさんは何枚かの生命保険証書をテーブルに広げ、合計金額をはじきだした。街金融をはじめ大方の債権者に返済できる金額である。
これで家族に迷惑をかけずにすむ……Sさんは安堵の胸をなで下ろし、自殺の決意を固めた。 -
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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