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ブログ・野口 誠一
第172回:生き続ける決意
2008年6月6日
「自殺する」そう決心したとたん、Sさんの心は軽くなり、余裕が生まれた。その後も毎日、街金融や債権者は押しかけてきたが少しも怖くない。冷静に対応できた。
「いずれ保険金で払ってやるよ・・・」。その思いが余裕につながったと言っていい。が、思わぬところで計算が狂った。Sさんの自殺を察知した奥さんが、すべての生命保険を解約してしまったのである。
その夜、Sさんは荒れた。湯呑みや灰皿を手当たり次第に奥さんに投げつけては、怒り狂った。
危険を感じた奥さんは、逃げるように家を出た。やがて、結婚を間近に控えて1人暮らしに入っていた娘さんから電話が入った。
「お父さん、お母さんと仲良くして。私が保証人になっているノンバンクの700万円は、私が返していくから心配しないで。それから結婚資金に貯めた500万円もお父さんにあげる。結婚式もしばらく延期し、お父さんが落ち着いてからにするから。お父さん、死なないで。お父さんといっしょにバージンロードを歩きたい」。
この娘さんの言葉に、Sさんは一言も返すことができなかった。ただただ涙が流れて止まらない。やがて奥さんが帰ってきたが、そのときはもうSさんから死神は落ちていた。
「あなた、自殺するなんて考えないで。保険金なんかなくたってきっと、何とかなりますよ。お願いだから私たちといっしょに生きて」
Sさんは奥さんに詫びた。家族愛に頭が下がったと言っていい。ところが皮肉なことに、「家族と生きよう」と思い直したとたん、債権者が怖くなりだした。
毎日、自宅の前に止まって見張る黒塗りの車が気になりだした。Sさんは警察に巡回してもらうと同時に、八起会が紹介した弁護士のもとに走り、法的整理に入った。平成11年のことである。 -
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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