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ブログ・野口 誠一
第174回:「まさか」の直撃
2008年6月20日
Kさんは八起会の最長老会員である。昭和4年生まれの77歳だが、いまも金沢で印刷会社を経営するバリバリの現役社長である。
八起会は月に1度、勉強会を開く。Kさんは、そのたびにはるばる金沢から出てきてくれる。かくしゃくたるものである。
Kさんが個人経営の印刷所を立ち上げたのは35歳のときである。「丁寧な仕事」をモットーに、徐々に堅実に業績、業容を拡大していった。
その40余年の歩みは、高度成長あり、バブルあり、オイル・ショックあり、円高ありと、日本経済の浮沈をそのまま映す歩みでもあった。Kさんはその浮沈を持ち前のガッツと経営センスでことごとく乗りきった。
しかし、経営にも人生同様、上り坂・下り坂のほかに「まさか」という坂もある。その「まさか」がKさんを直撃した。
ときに年商3億円、社員20人。地元金沢では中堅から大手の一角を占める印刷会社にまで成長していた。「まさか」はその絶頂期、しかも思わぬ方向から襲ってきた。
その頃、Kさんは社会貢献の一環として、金沢刑務所に写植機械を貸し出し、12人の収容者に技術を教え、仕事を提供していた。
それが縁となり、保護司に頼まれて仮出所する1人を従業員として迎えた。が、はじめは真面目そうに見えたその男も、徐々に本性が現れ、ずる賢く立ちまわるようになり、やがて詐欺事件を起こした。
彼は即座に刑務所に逆戻りしたが、Kさんはその後始末に追われ、多大の労力とコスト、そして顧客の信用を失った。
何よりも困ったのは、従業員のモラル(倫理)とモラール(士気)の低下である。たった1枚の「悪貨」が良貨を駆逐してしまったのである。
Kさんは、その立て直しにも多大の労力を強いられた。これがケチのつき始めであったかもしれない。 -
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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