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ブログ・野口 誠一
第176回:徳に隣りあり
2008年7月4日
倒産を余儀なくされ、長年の努力が水泡に帰したのちも、Kさんは誰を恨むでもなく、自分に与えられた運命を素直に受け入れた。それがKさんの資質である。
八起会のなかでも、Kさんは「愚痴を言わない」「他人の悪口を言わない」人徳者で通っている。そして、徳には必ず「隣り」がある。
倒産後、Kさんの徳と丁寧な仕事を惜しむ「隣り」が次々に現れて、「もう1度やってみないか」とか、「スポンサーになってもいいよ」などの声がかかった。が、多くの人に迷惑をかけながら、自分だけ出直すというのはKさんの信条が許さない。
何度も断った。が、「隣り」は何度でも訪ねてくる。思い余ってKさんは、破産の手続きをしてくれた弁護士に相談した。
「会社役員としての活動はできませんが、個人としてなら金沢であろうが、どこであろうが、前と同じ仕事をしてもいっこうにかまいませんよ」
この弁護士の言葉に、Kさんの「印刷業の虫」がはじけた。もう1度昔に戻り、初心に返って個人経営の印刷所から出直そう…。
Kさんがその腹をくくって再スタートを切ったのは、倒産してわずか1か月後のことである。これは稀有のことと言っていい。まさに、「徳に隣りあり」である。
平成6年6月、Kさんは再び個人経営の印刷所を立ち上げた。と、また「隣り」が黙っていない。
従来の得意先がこぞって仕事をまわしてくれる。Kさんは、たちまち息を吹き返した。が、無理はしない。設備も人員も取引先も絞りに絞って、高収益体質を目指していく。
かつて、次々に新しい機械を導入したり、そのために利益率の悪い下請け仕事まで受注したりした反省からである。
そして今、Kさんの会社は完全復活し、社員7人、年商2億円である。 -
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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