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ブログ・野口 誠一
第181回:倒産で抱く解放感
2008年8月8日
Tさんは、ほかの事業へ転進をはかるべく、店舗の売却に動き出した。が、皮肉なことにその噂が立っただけで、一気に信用不安が広がり、金融機関は貸し渋りどころか回収に入り、取引先は態度を一変させた。
彼はある商社系列から商品を仕入れていたが、そこがまず強硬策に出てきた。それまでは月末締めの翌月末現金払いだったのが、すぐに手形を出せ、裏書(連帯保証)しろという。口では協力すると言いながら、実態はこのありさま。Tさんは即座に拒否した。
しかし、これで商品ルートは切れてしまった。そこは最大の取引先で、全商品の3─4割ほど仕入れていたから、これで万事休す。
Tさんは会社整理を決意し平成7年7月、事実上倒産した。スーパー経営に携わること22年、ピーク時には従業員200人、年間売上高200億円、利益3000万円が幻のごとく消えた。
その悔しさ、虚脱感には言い知れぬものがあったが、その一方で、これで月末になっても支払いがない、従業員に給料を払わなくていい、何よりも金策に走らなくていいという、奇妙な解放感もあった。倒産者が一様に抱く感慨である。
整理(任意)はスムーズに運んだ。ひとえにTさんの人柄と、その人柄がつくった人脈のおかげである。友人の弁護士や公認会計士がチームを結成し、不動産の処分やら店舗の保証金やらを回収し、配当の原資をつくってくれたのみならず、各債権者に整理のやむなきに至った経緯と配当額を呈示し、大方の了解を取り付けてくれた。
それでも700万円ほど債務が残った。連帯保証人になってくれた2、3人に対する債務である。が、彼はそれを倒産直後から働いて少しずつ返し続け、平成15年、ついに返し終わった。むろんTさんの律儀によるものだが、稀有の例と言っていい。 -
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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