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ブログ・野口 誠一
第187回:肉体労働からのスタート
2008年9月19日
Mさんの心は、かなり歪んでいた。私はそのことを本人に自覚させるところから始めなければならなかった。
「あなたに夜逃げされ、債権者はさぞ困っていることでしょうよ。連鎖倒産や責任問題が発生するかもしれません。まさか、ザマみろ、などと思っているわけではないでしょうね。みなさん、いままであなたを助けてくれた人たちですよ。それを後ろ足で砂をかけてトンズラなんて罪深いことです。まずそこを反省しなくちゃいけません。とりあえず懺悔(ざんげ)の意味をこめて、日雇いから始めることです。日雇い仕事ならいつでも紹介しますよ」
「会長、私に肉体労働でもしろというんですか」
「そうです。どうやらあなたはいままで、他人を利用することしか頭になかったようです。これからは自分の足で立たなきゃいけません。肉体労働はその手始めとして、うってつけじゃありませんか」
私はそう言ってMさんを突き放した。彼は憮然として帰っていった。が、ひと月ばかりして、いよいよ金がなくなったとみえ、「会長、日雇いでもいいですから仕事を紹介して下さい」と言ってきた。そして間もなく彼は肉体労働を始めた。
ところが日給をいいことに、1日働くと2日休む、2日働くと3日休むといった具合で、休みの間は酒びたりという日々がしばらく続いた。
とても仕送りどころの話ではない。寂しさ、やるせなさを酒でまぎらわせていたのだろうが、私としても手綱をゆるめるわけにはいかない。
彼の場合、もっともがき、もっと苦しみ、落ちるところまで落ちないと、反省の心も感謝の気持ちもわくはずがないからである。彼の背負った「業」は、それほど深いのである。
私は「もっともがけ。そして耐えてみろ」と心のなかではエールを送りながらも、じっと見守った。 -
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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