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ブログ・野口 誠一
第189回:15万円の重み
2008年10月3日
それから2、3か月、Mさんは姿を見せなかった。「どうしているのかな」と気になりだしたところへ、彼がニコニコしながら現れた。
その顔を見て、私は驚くと同時に安堵の胸を撫で下ろした。裏表の区別がつかないほどに日焼けしているからだ。
「会長、きのう家族に15万円ばかり送金しました。いやあ、貯めれば貯まるものです。驚きました。もっとも酒はやめたし、金を遣うといっても定食屋のめし代とアパート代だけだから、貯まっても不思議はないんですけどね。肉体労働も悪くありませんよ。めしはうまいし、疲れてパタン・キューだから余計な金は遣わないし、その分貯まるしで、言うことありません。15万円なんて、私が以前、子どもたちにやっていた小遣いですよ。そのときは何の実感もなかったんですけどねぇ。妙なものです。今回の15万円は何となくうれしいというか、感激みたいなものがあるんですよねえ」
彼はいつになく饒舌だった。が、その饒舌はすこしも耳障りでない。私もうれしくて仕方なかった。
「いいことをしましたね、あなた。奥さんがいちばん喜んでいますよ。いくら自分の実家といったって、居候じゃ肩身がせまいに決まっています。そこへあなたの15万円が届いてごらんなさい。金額の多寡よりも、あなたが家族を見捨てていないという何よりのメッセージじゃありませんか。それに今回の15万円は、あなたが汗を流して働いた金なんですから。これからも頑張って続けなさい。そういう精進の積み重ねが、必ずあなたの運命を変えてくれます」
私もいつの間にか饒舌になっていた。そしてこの日、彼は会員となり、いみじくも私が予言した通り、その運命が大きく変わっていく。 -
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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