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ブログ・野口 誠一
第194回:奮い立つ復讐心
2008年11月7日
営業すればするほど赤字と借金がかさんでいくなかで、Aさんは来る日も来る日も資金繰りに追われ、半ばノイローゼに陥った。食事が喉を通らない。眠れない夜が続く。酒と睡眠薬を無理矢理流し込んで床に入るが、とろとろっとする間もなく、不渡りを出した悪夢に襲われ目が覚める。
3代続いた老舗問屋を潰すまいと、Aさんは懸命に踏ん張ったが、ついに腹をくくる日がやってきた。
「いまなら自宅ぐらいは残せるかもしれない」。そう思って弁護士のところへ相談に赴いたその日、とんでもないことが起きた。Aさんの動きをいち早く察知した債権者が自宅に押しかけ、奥さんを拉致、監禁してしまったのである。
Aさんは居ても立ってもいられない。もはや悠長な策など練っていられない。彼は即座に弁護士ともども東京地裁へ駆け込み、破産を申し立てた。
倒産後、悔しい日々がやってきた。本社ビルと保養施設を処分するだけで、あらかたの債務は片付いて十分、任意整理に耐えられたはずだ。その思いがAさんを苛む。
そして奥さんを監禁した債権者を恨み、憎んだ。恨むことによってしか、憎むことによってしか、自分の心を支えられなかったのである。が、憎悪からは復讐心以外、何も生まれない。Aさんはその奈落に落ちていく。
3人の子供を弟夫婦に預け、奥さんと2人でアパートに移ったが、やはり悔しさと恥ずかしさで昼間は歩けない。そんなAさんに奥さんが夜の散歩をすすめた。
が、外へ出れば自然に足が、いまは人手に渡ったかつての本社ビルの方へ向かう。ビルの前に立てば悔しさが募るだけなのに、それでも彼は立った。
復讐心を奮い立たせるためである。「あの野郎、ぶっ殺してやる…」。そう呟きながら、がっちりと下りたシャッターを何度も足蹴にした。 -
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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