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ブログ・野口 誠一
第206回:家族への思い
2009年2月6日
わずか300万円の資金繰りがつかず、Sさんはついに1度目の不渡りを出した。2度目も必ずやってくる。その前に彼は腹をくくった。すべての負債を洗い出し、家族に事情を打ち明け、債権者リストと負債額の一覧表、それに社員の給料を会社に残し、2度目の不渡りが出る前日、夜逃げした。
ボストンバッグ1つと50万円をふところに、車で東京へ向かった。途中、高速を走りながら、このハンドルの手を放せば死ねる、楽になれる…何度もその誘惑に駆られた。が、これから債権者に責め立てられるに違いない家族のことを思うと、ハンドルを切ることも放すこともできなかった。そして車は栃木県の足利市で止まった。少しでも家族の近くにいたい…その心理が働いたのかもしれない。
Sさんは足利にとどまり、懸命に仕事を探した。が、思うように見つからない。新聞やタウン誌にはけっこう求人広告があるが、面接を受けるわけにはいかない。住民票はないし、前の会社に問い合わされでもしたらいっぺんに事情がバレて、採用どころか、債権者に追いかけられないとも限らない。彼はやむなく地元の職安へ日参し、ある程度の事情を説明し、それでも採用してくれるところをさがしてもらった。
そして10日後、それまで彼は商人宿に泊まっていたが、そろそろ手持金があやしくなりかけたところへ、高崎のホテルに働き口が見つかった。寮への住み込みで1日2食付き、給料20万円である。彼は即座にとびついた。が、仕事の内容は宴会の後片づけ、残飯処理、トイレの掃除など、とてもかつてホテルの支配人まで務めた者のすることではなかった。
しかし、彼はそれを涙ながらに耐えた。すべては自分の播いたタネであり、何よりも大切な家族への仕送りを優先しなければならなかったからである。この記事へのコメント
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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