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ブログ・野口 誠一
第205回:騙されて借金地獄
2009年1月30日
ホテル倒産後のある日、債権者の1人だった男が、Sさんに妙な話を持ってきた。「建築の内装会社の経営をやってみないか」というのである。社長が胃ガンで入院し、子供もまだ若く、跡を継ぐ気もないという。資本金1000万円、社員7人、年商1億5000万円で、設立13年目とのことだったが、Sさんにとってはまったく未知の分野である。まして勤め人の経験しかない。彼は迷った。
このときSさんの背中を押したのは、アルバイトのとき、「いつかはホテルに出入りする側の人間になってみせる」と心に誓った夢、志であったのかもしれない。あるいは「社長」という言葉に魅せられたのかもしれない。それはともかく、彼は800万円分の株式を買い取り、社長に就任した。そして、そこから転落が始まっていく。
「聞いて極楽、見て地獄」という。内装会社の経営実態はまさにそれだった。借入金が隠れ借金を含めて5000万円余りもあり、なかには街金融からの借金もあった。他に大量の手形を振り出しており、その決済が次々に回ってくる。
Sさんはくる日もくる日も資金繰りに追われ、ていよくダマされたことに気付くヒマすらなかった。が、借金は借金を呼び、雪だるま式に増えていく。銀行に見放されれば、どうしても高利に頼らざるを得ない。
こうして悪戦苦闘が2年ばかり続いた。結局、Sさんの「社長業」とは資金繰りにほかならなかった。が、そんな徒労が長続きするはずもない。さすがにSさんも疲れ果て、手形の決済期日が迫っても、手を打つ気力さえ失っていく。これ以上踏ん張っても経営が好転する見込みはない・・・その諦めが頭の隅をよぎっていく。
そのときSさんの借金は1億円余り、当初の倍に膨らんでいた。もはや万事休すだ。この記事へのコメント
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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