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ブログ・野口 誠一
第238回:明日をも知れぬ命の不安
2009年10月2日
人生も経営も浮き沈みの連続である。上り坂・下り坂のほかに「まさか」という坂もある。ここに紹介するYさんは、人の何倍も浮き沈みを経験した特殊なケースだ。
彼の人生は「沈み」から始まったと言ってもいい。大学受験に失敗し、浪人が許されるほど裕福な家庭でもなく、泣く泣く進学をあきらめた。
縁故を頼って水道工事会社に就職したが、肉体労働できつく、仕事に対する喜びも将来への夢も持てず、辛い、不本意な日々が続く。が、縁故就職ゆえすぐさま辞めるわけにもいかない。石の上にも三年と我慢したところで、ようやく身体も慣れ、仕事の流れと内容もつかめるようになった。
そんなとき、何かと目をかけてくれた先輩が独立し、新しく水道工事会社を興した。先輩が去るとき、「おまえもあと10年頑張れば独立できるよ」と残してくれた、その言葉が、Yさんに希望をもたらした。自分も将来、独立して経営者になる…そんな希望である。
そこから彼の仕事に対する心構えが変わっていく。与えられた現場を単にこなすだけでなく、仕事の手順や効率を考えながら工夫を重ねていく。一方、受注はどこから、どのような形で入るのか、資材はどこから、どのような形で仕入れるのか、会社の仕組み全般にも目を配っていく。その目はすでに経営者のそれであったと言っていい。
そして4年が過ぎた。Yさんは独立へ向かってせっせと貯蓄に励む。就職以来、はじめて迎えた「浮き」のときであったかもしれない。が、好事魔多し。彼は一転して「沈み」の奈落へ突き落とされる。
その頃、体調がすぐれず病院へ行ったところ、肺結核と診断され、ただちに療養を申し渡された。 すべてがふっとんだ。独立の夢も希望も。そして襲ってきたのが絶望と、明日をも知れぬ命の不安である。この記事へのコメント
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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