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ブログ・野口 誠一
第242回:救われたYさんの心
2009年10月30日
「私こと、日夜奮闘するも努力至らず、皆様方に多大のご迷惑をおかけする結果となり、まことに申しわけございません。深くお詫び申し上げます」
Yさんは事務所のシャッターに貼り紙をし、家族を連れて逃げた。裁判所から債権者へ破産決定通知書が届けば、取り立てが殺到しかねないからである。家族は親戚に預けたが、すぐにも生活費を稼がねばならない。
債権者集会を控える身では、弁護士や裁判所との打ち合わせがあり、定職に就くわけにもいかない。彼は日雇いとなって働く。きつい。こたえる。涙が出る。が、稼がないことには暮らしていけない。免責となったとき、彼の顔は裏表がわからないほど日焼けしていた。
その日焼けに驚いたか、2、3人の債権者が「もう一度やってみないか」と声をかけてくれた。Yさんは彼らに車を1台買ってもらい、再び寝具販売を始めた。やがて軌道に乗り、生活も安定したところへ、今度は療養所時代の知人から「手伝ってくれないか」と声をかけられた。迷いに迷ったが、彼は療養所を選んだ。以下はYさんの述懐である。
「かつての生活が戻ってきました。周りはいずれも重度の障害を持つ人たちばかりです。彼らを見ていると、お金がほしいとか豊かになりたいといった物欲が消えていきます。会社を経営していたときの生活に比べれば、いまは雲泥の差です。
しかし振り返れば、自分の人生のなかで、もっとも精神的に充実していたのは、やはり療養所関係の仕事をしていた時期だったと思います。それは、何ものにも代えがたい充実感でした。その意味では、債権者の方々に多大の迷惑をかけ、まことに申しわけないのですが、ようやく自分の人生の原点に戻ることができたと思います」
これも一つの再起である。形の再起より心の再起である。この記事へのコメント
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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