-
ブログ・野口 誠一
第299回:いちばん高い買い物は?
2011年4月29日
世の中でいちばん高くつく買いものは、「人の歓心を買う」ということである。さほど酒が好きというわけでもないのに、私が夜な夜なネオン街を流したのは、ひとえにホステスにモテたかったからにほかならない。以下は彼女たちの歓心を買うために、私が演じたバカ騒ぎの一席である。
秋も深まったその夜、私は例の如く取り巻きに囲まれ、ホステスをはべらせ、銀座のクラブで呑んでいた。と、ホステスの一人が、「焼きイモ、食べたいわね」と言う。ほかのホステスもそれに同調していく。
モテたい男は、こういう言葉を決して聞き逃さない。私は即座に、「よしっ、おれが買ってきてやる」とばかりに外へ出た。寒空の下で焼きイモ屋が屋台を出している。いまは知らないが、当時の銀座は焼きイモに限らず、ラーメンや安倍川モチの屋台がけっこう出ていたものである。以下は焼きイモ屋の親父と私のやりとりである。
「オヤジ、焼きイモをくれ」
「へい、いかほど」
「屋台ごとくれ」
「えっ。お客さん、冗談はよしてくださいよ」
「冗談じゃない。屋台ごとだ。いくらだ」
目を白黒させる親父に、私はポケットから二ツ折りにした分厚い札束を取り出し、無理やりその手に握らせ、すたこら屋台を引いてクラブへ帰った。親父にいくら渡したかなどまるで覚えていない。が、親父が「それは困る」と追いかけてこなかったところをみると、商売道具をとられても間尺に合うだけの金額だったに違いない。
それからは屋台をクラブのなかへ入れるのに大騒ぎ。そしてホステスたちに焼きイモの大盤ぶるまいである。歓心を買わんがための大サービスとはいえ、バカにつけるクスリはない。この記事へのコメント
-
-
-
-
筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
「ブログ・野口 誠一」の 月別記事一覧
-
「ブログ・野口 誠一」の新着記事
-
物流メルマガ