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ブログ・野口 誠一
第315回:家内の笑顔に涙あふれる
2011年8月18日
家内がデパートのパートに出たばかりの頃、よく夜中に足をさすっていた。慣れない立ち仕事で足が痛むのだろう。私が「仕事、きついか」と尋ねると、「いいえ、そんなことはありませんよ。毎日が楽しいですよ」と、なんの屈託もない。楽しいわけがないではないか。そんなことはわかりきっている。私は涙を見せまいと黙って寝返りを打つ。
そしてある日、家内が「夜も働きたい」と言う。聞けばラブホテルの受付である。何度もそこに入ったことのある私は、「そんなことやめろ」と言いたいのだが、到底言えるわけがない。そんな私の心を察してか、勤めの初日に帰ってくるや、「お父さん、なんでもなかったわ。最初はすこし怖かったけど、ああいうところはうまくできているのね。受付からお客さんの顔は見えないし、向こうから私の顔も見えないしで、本当によくできているわ。ほほほ」と笑うが、私に笑えるわけがない。歪んだ笑みを放って、またまた寝返りを打つ。そしてとめどない涙が枕を濡らす。
家内がこうだから、子どもたちもなんの不平も言わず、自分たちに振られた運命を黙々と生きている。その運命を振ったのは私なのだから、そばで見ていて死ぬほど辛い。が、私は相変わらず倒産地獄のなか、家賃4万6000円の6畳2間を行ったり来たり、胡座をかいたり大の字になったり、果ては溜め息だけが生きている証しのような日々が続く。
そして、いつしか独り言を言うようになっていた。雨が降れば「とうとうきたか」、カレンダーが目に止まれば「もう9月か」、昼どきになると「きょうは何があるかね」と、冷蔵庫に話しかける。孤独とはそういうことをいうのである。
私のように家族愛に恵まれた者ですら、孤独地獄は免れない。そして、孤独の裏側には自殺がべったりとくっついているのである。この記事へのコメント
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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