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引っ越し「今昔物語」 サービス競争の果てに心のふれあい消える
2011年7月11日
単身引っ越しの増加や繁忙期の短縮など、時代とともに消費者ニーズも変化してきた引越業界。そうした変化は、引越事業者と顧客との関係にも及んでいる。対価を支払っているのだからサービスをして当たり前だと考える事業者に、サービスをしてもらって当たり前だと考える消費者。シビアになった取引は、両者から昔ながらの温かさを奪いつつある。希薄化する人間関係が指摘される現代、引越現場からその現状がうかがえる。
埼玉県で引っ越しを手掛ける事業者は、最近の引っ越しについて、消費者の変化を口にする。「昔は引越作業に行くと、まず、顧客からありがたいと歓迎された」という同社社長。作業の合間に顧客からお茶を出してもらうのは当たり前で、ときには食事の提供を受けることも少なくなかったという。また、「作業をしながら世間話などの雑談もあり、温かい雰囲気の中で引っ越しが行われていた」と振り返る。作業終了後には、引越代金とは別に、作業員一人ひとりにチップが手渡されることも頻繁にあったという。
それが、時代とともに大きく変化した。「運賃競争やサービス競争が展開され、事業者と消費者の関係が変わった」と指摘する同社長は、いつしか、「消費者は対価を支払っているのだからサービスを受けて当たり前。また、事業者もその反対に、サービスを行って当たり前と考えるようになった」という。
顧客からありがたいと歓迎の姿勢で迎えられることも徐々に減り、世間話もなくなっていった。事業者と顧客の関係はどんどんシビアになっていったという。
「いまは、作業の合間にお茶を出してもらうことも少なくなった」という同社長は、「顧客との会話も減り、ただ、黙々と作業をこなすだけというのがほとんどになった」と話す。当然そこでは、作業員へのチップも減少していった。
「別にお茶を出してもらえなくなったことやチップをもらえなくなったことを嘆いているのではないが」とする同社長は、「顧客のためと力が入っていた作業が、おカネのためという考えに変わらざるを得なくなってしまったことが何ともさびしい」とこぼす。
「大雨の日の引っ越しで、作業終了後に家族全員が見送りに立ち、ずぶぬれになった私たち作業員に対し、涙を流しながら感謝されたことを、いまでも思い出す」という同社長は、「昔は引越作業に温かみが感じられた」と振り返る。
商売として引っ越しを手掛けているだけに、「どんな顧客であれ、作業に差をつけることはできないが」と話す同社長だが、「歓迎の姿勢で出迎えてくれる顧客に出会うとうれしくなり、カネのためではなく、この顧客のためと、作業にもより一層力が入るのは正直なところだ」と本音も漏らす。(高田直樹)
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