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トピックス
物流業界で日頃感じている矛盾(1)
2012年9月28日
法令順守すれば売り上げが落ちるーー。どの業界にも「矛盾」が生じる場面がある。
今回は「物流業界で日頃感じている矛盾」をテーマに各事業者に聞いた。
「一般」と「軽」の格差「一般貨物運送事業は、会社として対応しなければならない法令や規制が多すぎる半面、それをクリアしたとしても競争激化と供給過剰によって、得られるリターンが少なすぎる」。トラック運送業界の問題点について、軽貨物運送事業を展開する長原配送(北海道帯広市)の長原和宣社長はこのように断じ、「一般貨物には魅力を感じない。昔は進出を検討したこともあったが、今はそのような考えを持っていない」と話す。
確かに一般貨物事業には、運転者に対する点呼や適性診断、特別な指導監督や健康状態の把握、拘束時間や連続運転時間の順守など、仕事を行う前提としてやらなければならない最低限の義務が非常に多く、しかも、これらの結果を書類や帳票として適切に作成・保存しなければならない。これらが徹底できていないことが運輸行政に発覚した場合、車両停止や営業停止などの処分を受けてしまう。
更に、チェックの目は適正化実施機関による定期的な巡回指導に加え、運輸局、警察、労基署、一般からの通報など、網の目のように広がっている。
公道を使って輸送サービスを提供するのは一般貨物も軽貨物も同じだが、管理業務の煩雑さと行政処分のリスクという面では大きな違いがある。同じトラックでも、このような「一般」と「軽」の格差は現在の物流業界の一つの矛盾といえる。(玉島雅基)
適正価格で燃料供給伊那運輸(長野県上伊那郡)の山越重信社長は、軽油とガソリンの価格差について「仕入れ価格が上がっても、ガソリンは消費者がシビアなので販売価格に転嫁しづらく、その分を事業用として確実に販売が見込める軽油に余計に転嫁している」という現状を問題視する。それぞれの製品に対して、適正な利益をのせて販売すべきとの考えだ。
一時期ほどではないが、軽油とガソリンの販売価格が少しは狭まっているのが現状。山越社長は「精製コストと税金を考慮すれば、もっと差があるのが当然」と話す。
石油元売り業者の市場寡占化も、これを助長している原因と考えられる。ここ十数年間に起きた業界再編によって、大手5社の販売シェアは約80%と「寡占化」が加速。価格面で健全な競争原理が働いているかについて、消費者から疑問の声も上がっている。
同氏は「昨年の震災でも明らかになったように、燃料は国民生活に不可欠。それが適正な価格と競争原理で供給されているかについて、もっと国の関与があって良いのでは」と指摘する。(中道幸男)
最低運賃を決めて帰り荷運賃なくす建材や食品の輸送、リングのレンタルを手掛ける梅田陸運(大阪府門真市)の磯崎拓也社長は、「帰り荷運賃という言葉があるのがおかしい」と強調する。
同じ距離を走行しているのに行き帰りで運賃が変わることに疑問を感じている磯崎社長は「なぜ、同じ距離を走っているのに運賃が変わるのかが理解できない」と怒りを表し、帰り荷の運賃がある限り、これからも業界の運賃を上げることはできないと言い切る。
誰でも参入できる業界の仕組みを指摘し、「簡単に参入できるから業界の足並みがそろえられない」とも話し、「最低運賃を決めて帰り荷運賃をなくせばいいだけのこと」と語る。
また、「そのために事業許可を持っているところをト協に強制加入させて、みんなで力を合わせていかないといけないと思っている。もっとト協が力をつけて色々なアピールをしていかないと、何のために会員から会費を取っているのか分からない。会員や業界が良くなるように頑張ってもらわないと困る」と思いを語る。(中村優希)
年金制度に抱く疑問ワイズコーポレーション(群馬県伊勢崎市)の谷篤英社長は、ドライバーから運行管理者となり、独立した。日々、従業員と経営者両方の立場を考慮しながら人材育成に力を入れ、従業員とのコミュニケーションも大切にしている。
谷社長は、「将来もらえるかどうかわからない年金に入りたくないと言われることが多い」と話す。「年金加入は社会の決まり。仕方ない」と説得しているが、年金制度に抱く矛盾や疑問を払拭する回答はできない。「アルバイトで働く場合、頑張った人ほど規定時間をオーバーしてしまい、年金加入対象となる。これは労働意欲を低下させる原因にもなる。物流の仕事は決まった労働時間で終わらず、長くなりがちな職場。国はもっと社会整備をしっかりして、若者の労働意欲を高めるようにしていただきたい」。
また「頑張ってコンプライアンスに努め、輸送品質で勝負しようと思っても結局は運賃の安さで決まる状況。経営者としては悩みどころ」と語る。(小澤 裕)
運賃・料金の法制化を「運賃・料金は国で決め、私達はその決められた運賃・料金に従う。それこそが公益事業の基本」とトラック運送業のあり方を訴えるのは、運革協(八田廣實会長、大阪府寝屋川市)の辰巳寛一専務。
「時代と共に物流企業は益々進化を遂げている。現在の物流業界では、ハイテクを駆使し、オートメーション化された近代設備を持つシステム物流企業が必要不可欠な産業」と物流会社を評価する一方で、「しかし、実運送企業(トラック輸送)は今も昔も変わりない。いくら近代化した物流配送センターから出荷された荷物でも、一人のドライバーがハンドルを握って昼夜を問わず目的地を目指す。ここには大きな公益としての義務と責任が課せられている」と指摘。
さらに、「近代化し進化を遂げた物流企業に対して、実運送企業は大きく貢献してきた。その公益事業に対して、自由化の下、運賃・料金を競合の中で決めるのはいかがなものか。スケールメリットがない私達の業界は大・中・小・零細企業に関わらず経費は全て同じである」と現在の規制緩和の流れを批判。
運賃・料金の法制化を訴え、「それでこそ安全輸送と環境、また法令順守ができ、国内の輸送基盤の維持に努めることが出来る。トラックを走らせると会社はマイナス収支になるため、他社に丸投げするというおかしな現状が業界内でまかり通っている。この実運送業界に大きな矛盾を感じている」と話している。(大塚 仁)
規制と管理の徹底を
物流2法の施行で新規参入が容易になり、事業者数が増加した半面、国内経済の低迷で貨物量は減少傾向にある。少なくなったパイを巡り、企業間の競争が激化して争奪戦が繰り広げられる。大阪市内の運送事業者社長は「参入障壁を下げたなら、行政が責任を持って徹底した規制と管理を行うべき」と訴える。
同社長は「貨物量が減って事業者が増え、運賃単価が下がる、規制緩和による負のスパイラルが続いている」と指摘。その上で「国内景気がデフレ傾向で荷主に運賃交渉を持っていける状況ではなく、物流コストが今以上に上がれば当然、荷主も経済市場を海外へシフトしていく」というジレンマを感じており、「増え続ける事業者に対して的確に歯止めを掛けないと安全性を無視した競争だけにつながっている。管理が出来ないから規制緩和を行っただけではないか」と憤る。 (山田克明)
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