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運送事業法条文の空文化 施行後10年経過事例なし
2012年12月10日
【北海道】トラック運送業界の基本法である貨物自動車運送事業法の第22条の2に「輸送の安全の確保を阻害する行為の禁止」についての条文が設けられている。これは平成15年4月に施行された2度目の物流2法の改正により、新たに追加された条文で、「利用運送を行う元請け事業者は、実運送を行う下請け事業者の安全確保を阻害してはならない」といった趣旨だが、施行後およそ10年間が経過しても、ほとんど適用事例がなく、北海道運輸局管内ではゼロとなっている。運用次第でトラック運送業界の安全性の向上や取引の適正化を推し進める可能性のある重要な条文だが、空文化しているのが実態だ。
この条文には、「利用運送を行う者は、実運送を行う者の安全確保を阻害してはならない」とあり、「元請けが下請けに無理な運行を押し付けることを抑止・防止する意図がある」ように思える。しかし、これを根拠として元請けが処分を受けたという事例をほとんど聞いたことがない。 この条文が設けられてから「元請け事業者への適用(違反)事例」を北海道運輸局を通じて国交省の貨物課へ問い合わせたところ、全国ベースでの回答は返ってこず、「北海道での適用事例はない」とのことだった。北海道では、およそ10年間で運輸局が一度も「元請けが下請けの輸送の安全を阻害する行為」を確認できなかったということだ。この条文が元請けに適用される要件として、貨物課では次の3点を挙げている。?元請けの指示が運送契約書や運送依頼書などで明らかであること?運行の方法や出発・配送時間などが実質的に元請けの指揮下にある場合などや、雇用関係と同程度の専属的・従属的な関係に下請けがある場合?元請けの指示行為は明らかではないものの、この元請けと取引関係にある複数の下請けが同一の違反行為によって輸送の安全確保に関する命令または行政処分を受けている場合。
従って、元請けが下請けに対し、スピード違反や過労運転・長時間労働、過積載などを前提とした輸送依頼を行った証拠がある場合や、下請け数社が同じ違反で処分を受けていた場合などでは、「具体的事案ごとに判断する必要があるものの、輸送の安全を確保することを阻害する行為があったと認められる可能性がある」という。なお、認定にあたっては「原則として元請けと下請け双方に監査を行う」ことになり、元請けに適用されれば、車両停止などの行政処分や、輸送の安全確保命令の発出などが行われる。
この条文に違反している事例があるか、どのように調べているのだろうか。貨物課では、「下請けに対する監査により、該当する事案かどうかチェックを行う」ほか、「下請けから『元請けより輸送の安全を阻害する行為があった』と訴えがある場合は、内容を勘案した上で調査を行う場合はある」とするものの、これまでの適用事例を見れば、それほど積極的に調査をしてきたとは考えられない。少なくとも、違反の認定に際し、行政は極めて慎重な姿勢をとってきたことがうかがえる。
新たに条文を設けたものの、10年間違反がゼロというのは、北海道では「元請けが下請けの輸送の安全を阻害する行為がほとんど行われていない」か、「実際には行われているが、表面化していない」かのどちらかだ。そして下請け事業者からは、長時間労働や短いリードタイムなどこの条文に抵触しそうな元請けからの厳しい輸送依頼の内容について話を聞くことができるので、前者の可能性は低いと言わざるを得ない。
運送業界を専門にしている行政書士・社労士の長野源太氏(ながの総合法務事務所、札幌市東区)は「重要な条文だとは思うが、普段は全く触れない。例えば、大手の傭車先が改善基準違反が原因で事故を起こしたとしても、その大手が処分を受けることはほとんどない。関越自動車道でのバスによる死亡事故のように、よっぽど重大な事故の原因が元請けにあるようなことじゃない限り、適用されることはないと思う。また、傭車先も自分の荷主にあたるような元請けを売るようなこともしないだろうから、何か問題があった場合でも、自社の責任として収めてしまうのではないか」と指摘する。
運送業界では、元請けと下請けの間の取引の適正化を進めるために、下請法などの法令や様々なガイドラインが規定されているが、基本法である事業法の運用によっては、一層これを改善させて行く可能性がある。なお、この条文は十分に機能しているという認識はあるのかを聞くと、「北海道での適用事例がないので、回答しかねる」とのことだ。(玉島雅基)
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