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運送会社
「物流の価値」を発現せよ…多摩大学大学院・水嶋教授に聞く
2009年8月5日
1990年代から経営戦略におけるロジスティクスの重要性は認識され始めたが、昨年末以降の大不況に直面した結果、再び物流は「単なる目先のコストダウン対象」という認識に逆戻りしてしまった。物量の減少もはなはだしく先行き不透明な現在、物流企業は大きな変革期を迎えているのではないか。多摩大学大学院の水嶋康雅教授に聞いた。
水嶋教授
「これからの経営は物流、ロジスティクス抜きには考えられない」という視点を持ち、企業経営戦略としてのロジスティクスを研究、教育しているのが多摩大学大学院だ。水嶋教授はロジスティクスを研究する多摩大学研究開発機構サプライネットワーク・マネジメント研究所所長も務める。
同氏は「日本の荷主は、物流の戦略なしに『安くしろ、早くしろ』と言ってきた。物流はコストとしかとらえていない」と指摘する。
ロジスティクスを経営戦略ととらえると、多くの荷主が戦略も持たずに物流を軽視していることになる。現場の物流担当者が運送会社と交渉して運賃を下げさせるだけで、企業経営の全体をとらえた物流「戦略」はなく、軽視されてきた。90年代に入ってキャッシュフローマネジメントやSCMといった経営思想は広がったが、昨年からの大不況で物流は単なるコストダウン対象に落とされた。
戦略なき安易なコストダウン。同氏はこれを「火の用心経営」と呼ぶ。社長が「火の用心」と叫ぶ。その次の管理職も同じように叫び、やがて現場でも「火の用心」と叫んでいる状態だ。「火の用心」のために何をするべきかを取り組むのではなく、掛け声だけが伝わるだけでは成果は上がらない。物流に当てはめると、社長が「物流をコストダウンしろ」と命令だけして、現場では運賃値下げしかしていない状態のケースだ。こうしたことを繰り返しても、企業全体の物流コストは見直されないし、極端な運賃値下げを続ければ物流システムが破綻するケースもある。
「こうした考え方を変えないといけない」と同氏。これまで提唱してきた「価値発現のロジスティクス」は、企業が開発・生産するモノと物流は一致しなければならないという思想だ。どんなにいい製品を開発し製造しても、その製品を必要とする人・場所に、必要な時に届かなければ価値はない。製品はロジスティクスと一致してこそ価値があるとして「これを荷主の経営者が理解しているかが重要」と指摘する。
物流事業者の側からとらえると「物流事業者は荷主の商品価値を発現させる役割をもっている」ことになる。物流事業者がこうした意識を持っているかが重要だ。「荷主が何を考えているのかを物流業者は分からないといけない」と同氏。
多くの荷主企業は90年代の苦労から、SCMに取り組んできた。荷主と同じ目線で考えるなら、荷主ニーズは物流コストの安さや運賃値下げだけではない。経営戦略としてのロジスティクスが必要とされている。これに加えて今はずせないのは環境、エコの問題だ。
物流事業者の考えも変えると同時に、荷主側は経営戦略としてロジスティクスをとらえていかねばならない。同氏は、荷主が物流部門を廃止することに反対する。物流部門をなくすことは、物流の価値を判断できる人材がいなくなるからだ。
「荷主は物流を無視してはいけない。これは荷主が物流部門を持ってやれということではない」と同氏。物流企業はサービスプロバイダーでありパートナーであるという信頼関係が必要で、そのためには物流の価値を判断できる人材が荷主側に必要だ。
物流事業者には「一番悪いところは、自分たちの仕事の価値を知らないこと。仕事に誇りが持てる会社にしないといけない。物流は荷主の商品価値を発現させること。誇りを持てば、目の前の改善提案はいくらでも出てくる」と告げる。
誇りが持てる企業を目指すことが、物流業者の生き残る力を呼び覚ますのだ。(千葉由之記者) -
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