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ブログ・高橋 聡
第299回:令和時代の運送業経営 歩合設計編(96)
2025年10月14日
【歩合給設計編】96
「頑張る運送業経営者を応援します!」というシリーズで「令和」時代の運送業経営者が進むべき方向性、知っておくべき人事労務関連の知識・情報をお伝えしています。
今号から「歩合給設計編」として時間外上限規制(2024年問題)への給与設計面での対応について解説してまいります(その6)。
1.歩合給についての評価、印象
歩合給の印象は、その実務的な内容を知らない方にとっては「労働強化」「働かせ放題」など「悪い」ものとなっています。ハローワークで歩合給に関する説明をしていると、「月の労働日数のすべてが悪天候で運行できない場合はどうするのか」「仕事がなくて歩合が稼げない場合にはどうなるのか」といった現実的ではない言い方で歩合給を否定したがる担当の方もいます。また、労働基準法により実際に勤務したにも関わらず仕事がないなど、歩合給が得られない場合には平均賃金の6割の保障が義務付けられています。
しかし、歩合給を採用している当社の顧客で、この保障条項を実際に使用した事例はありません。
保険や不動産の販売業やタクシー業では歩合給が多く採用されています。これらの業務では、出勤して労働したにもかかわらず成果があがらないこともあり得ます。しかし、トラック運送業では出勤したが仕事がないということは実際にはほとんどあり得ません。
また、歩合給というと「長時間労働ではないか」「無理させているのではないか」という印象を持たれる場合が多いのですが、実態としては歩合給を採用しているドライバーの方が、残業時間数は短くなっています。前号でも記載しましたが、手積みの場合には高めに単価設定するなど、労働評価をきめ細かく実施できることも歩合給の特徴です。
2.裁判の行方、影響
大手引越会社の歩合制賃金の残業代未払いに関する裁判で会社側が敗訴している状況ですが、この判決内容が確定した場合の影響は大きいでしょう。歩合給を採用している会社に対する未払い残業請求が急増し、業界が混乱することが予想されます。在職のまま請求をしてくるドライバーもいるのが現状です。また、歩合給が否認され時給制などに転換した場合には、時間短縮への取り組みにブレーキがかかることが想定されます。その結果として過労運転による重大事故発生など、マイナス面の影響が出てくることもあるでしょう。
対策としては、所定内手当としての時短奨励手当や残業対策にウェイトを置いた評価制度の実施が検討できますが、設計は容易ではありません。トラック運送業は経済のインフラを担う大変重要な産業です。司法判断は予断を許さない状況ですが、業界関係者の1人として真摯に経営に取り組む経営者のためにもどうか混乱することのないことを祈るばかりです。
このシリーズでは歩合給の性質について、さまざまな観点で解説してまいります。関連記事
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筆者紹介
高橋 聡
保険サービスシステム社会保険労務士法人
社会保険労務士 中小企業診断士
1500社以上の運送会社からの経営相談・社員研修を実施。
トラック協会、運輸事業協同組合等講演多数。 -
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