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ブログ・川﨑 依邦
経営再生物語(321)人材育成について(18)A社の事例(1)
2021年2月8日
「実は私どもの経理課長が、2000万円ほどの金を持ち逃げして行方をくらました。どうしたらいいでしょうか」
深夜、自宅に携帯がかかった。従業員100人ばかりの会社である。携帯の声は震えがちで度を失っている社長。一方、私の方もびっくりして一瞬返す言葉を失った。気を取り直して「どうしてこんなことになったんですか」と尋ねた。「経理課長に全てを任していたからです。信頼しきっていたんです。給料日の前日無断欠勤したので現金の残高を調べたら異常に残高が少なく、持ち逃げが判明したんです。彼は40歳ですが独身です。母親と一緒に住んでいたんですが、その母親が1年前に死んで今は1人です。1人ですから行方をくらましてしまうと探しようがないのです。2000万円のお金は、うちの会社でいえば1年分ぐらいの経常利益額に相当します」
経理課長は大人しく目立たない男である。小柄であり風さいもパッとしない。まさかあの男がこんな大胆不敵なことをするとは神様でも予想できないと思わせるほどの出来事である。人は見かけによらないとは、このことである。私はその経理課長に対して、部門別の業績管理の会計制度をアドバイスしていた。いわば人材育成のお手伝いをしていたわけである。持ち逃げという現実に直面して人を育成するということの大変さを悟らざるを得ない。部門別の業績管理をアドバイスしていて何たることか。アドバイスを受けていた当の経理課長が持ち逃げとは「何を教えていたのか」とショックを覚える。
それはそれとして、気を取り直して泣きださんばかりの社長に言った。「社内の動揺を押さえて下さい。交通事故みたいなものです。2000万円というお金は大きいですが働いて働いて取り返すと決意して下さい。そして、任せっきりでノーチェックで放任していた管理体制を全面的に見直して下さい。人材育成についてもこんなことがあったからと言って投げ出すのではなく、粘り強く実践して下さい。確かに私も持ち逃げするとは夢にも思いませんでしたが、ショックばかり受けていてはダメだと思っています。人事を尽くして天命を待つという姿勢でいって下さい。力のある限りを尽くしてその上は天命に任せていくという心構えです」 (つづく)
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筆者紹介
川﨑 依邦
経営コンサルタント
早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。
株式会社シーエムオー
http://www.cmo-co.com -
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