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労使トラブルを回避した感謝の心
2010年7月2日
就業規則の見直しを検討する運送会社の声を多く聞くようになった。長時間労働や未払い残業代などが労使間で訴訟になれば、経営を左右しかねないため、トラブルを未然に防ぐ対策が必要となる。異常な荷待ち時間や適正でない運賃など、労働環境を守れない理由には運送業独特の課題もある。こうした中、法令順守に挑戦しながらも労働時間を守れなかったが、労使トラブルを防いだ事業者の話を聞いた。
神奈川県の運送事業者F社は最近、労基署から拘束時間の長さを指摘され、是正勧告を受けた。同社はメーカーとの直接契約で輸送を行っているが、景気低迷で運賃は下がっていた。また、逆に燃料と車両価格は値上がりし、「運賃が上がらないため時間でカバーするしかなかった」という。1人当たりの仕事を増やして売り上げを維持してきたが、リーマン・ショック以後は借入金も増え、資金繰りに困っていた。苦しい経営状況が労働環境を悪化させた引き金ともいえ、行政からは指摘を受けたものの、従業員間でのトラブルにはなっていない。むしろ会社を良くしようと従業員が懸命だ。
同社長は「ドライバーは会社の状況も社長の行動も全部わかっている。それなのに社長が現場を思いやることがないから、トラブルになるのではないか」と指摘。同社は逆に、ドライバーを尊重してきたから、労使間のまとまりがとてもいいという。
同社長によると、社長が直接指示を出す中小・零細事業者であれば、社長の振る舞いや言葉から、経営状況まで察してしまう。労働時間が超過になる原因や、残業代が払えなくなる理由も承知で働いているドライバーも少なくないという。
そうしたドライバーらに感謝する同社長は、「ドライバーがいるからこそ売り上げが上がるのが運送業だ」と話す。労使がもめてしまう要因は「『俺が社長だ』と偉くなってしまうからだ」と指摘。「従業員に上から目線でモノを言う経営者が結構いるが、あなどってはいけない。今は高卒のドライバーも多く、法律なども皆よく知っている」。過重労働や残業代未払いなど、分かった上で我慢しているのだという。
「ドライバーの心を軽視して人間として尊重もせず、経営不振の責任は従業員に押し付けて、会社は法令を守らない、威張るだけの社長。それでは何かがきっかけで、『我慢してきたが仕返ししてやろう』と思うのも人情ではないか」と説明。
同社の場合、労使トラブルを生まなかったのは、第一線のドライバーを大切にする社長の心遣いにあったようだ。いまは業界全体が苦境の時だ。同社長は「ビクビクして仕事はしたくない」と、荷主にも交渉しながら少しずつ法令順守に取り組んでいる。(千葉由之)
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