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トピックス
運送以外のビジネス展開
2010年11月5日
運賃低迷や荷量減少など、厳しい現状が続く運送業界。本業の運送で培ったノウハウを活用し新たなビジネスを展開し、生き残る道を模索する事業者も存在する。本業に囚われない柔軟な発想から生まれたビジネスにはどのようなものがあるのか。新ビジネス展開への経緯などを聞いた。
物流コアに「新商品」発想
「運ぶものを創造する会社」ーーータムラコーポレーション(田村隆社長、神奈川県川崎市)は自社を、こう定義する。Gマークも取得しているが運送会社という型にはまらず、物流をコアに新事業を展開している。その一つに、食堂事業がある。相模原市にある食堂店舗には、食事時に大勢の客が押し寄せるほどの大盛況。しかし、これだけにとどまらず、弁当事業を始めた。「やどかり弁当」と名づけ、弁当を配達する事業だ。食堂の厨房を使うので「やどかり」というネーミングだという。
弁当の注文を受け、客先まで配達するのは同社の運送部門のドライバー。弁当の注文は昼が多く、車両とドライバーは午前中に弁当を配送。午後からは運送業としてフリーペーパーの配送や、スーパーの「買い物持ち帰り」サービスの配送を行う。
「買い物持ち帰り」のニーズは夕方のため、車両は一日中ムダなく動き、まさに「運ぶものを創造」している。厨房も食堂と弁当が同じなので「会社が持っているインフラを全部使った二毛作」と田村隆社長は言う。弁当配達が好評で年末年始には、おせち料理にもチャレンジする。配達ニーズは12月31日と、通常は運送の仕事がない時期に車両を活用する。食堂も弁当も単なる別事業ではないところがユニークだ。田村社長は「これは物流会社だからできる発想だ」と話す。
常に新しいアイデアを事業化してきた田村社長は今、若手社員の発想を大切にしている。20代を中心とする開発チームに新商品を考案させているのだ。入社1年目の新卒社員も含め配送担当、事務職など全職種のメンバーが、物流をコアとしたサービスを考え、利用者の視点から世の中で必要とされるものをビジネス化する。
社長は、この会議には参加せず任せることで若手の才能を伸ばしており、社員は「自分の意見を聞いてもらえるのがうれしい」と生き生きと取り組んでいる。素晴らしい案について、社長は「よくできている」と称賛することも忘れない。「認めることで能力が飛躍的に伸びていく」からだ。
また、「新規荷主開拓」「別事業」ではなく、「新商品」という言葉を使うのは、運送・物流を中心にしたサービスの「新商品」を提供していることが理由。「こうした発想は昔からある。子どもの頃、オマケがほしくてキャラメルを買ったように、運送がキャラメルなら、それにつけるオマケを考える」。
今も新商品の準備中。「運ぶものを創造する」歩みは止まらない。(千葉由之)
リユースで環境に注力
明邦運輸(東京都板橋区)は社歴45年。2代目の佐藤勝也社長は、上場している大手物流企業で最先端の物流を学んだ後、同社に入社、事業を引き継いだ。総合物流を目指し、一般運送だけでなくトランクルームやデポ機能を備えた倉庫事業、個人や企業の引越事業なども事業に加えた。
「メガ・フランチャイジングが流行した時代があった。その頃から運送事業に陰りを感じ、運送以外にも収益の柱を何本か作る必要を考えた」。07年、洋風飲食店のフランチャイズ店1号店を池袋に出店。現在、全国で約100店舗を展開するチェーン店の中で「池袋店は売り上げで全国1位をとったこともある」という。
しかし、「長引く不況で飲食店経営も厳しい時代。店舗を出すにはそれなりの投資が必要」として、引っ越しの際に引き受けるオフィス家具の処分など、中古家具の販売も始めた。
「投資がほとんど必要ない。何より?リユース?という環境に優しい事業」と語る。「運送業はなくならないが、それだけで生き残れない。収益の柱をバランス良く持つこと、運送から生み出される事業を活用し、また運送の仕事を生み出すような事業が会社を守る」と話している。(小澤 裕)
不要紙材を緩衝材に再生
既存荷主の特性資源を生かしたリサイクル事業を手掛けるクイック(大阪府松原市)は、顧客の事業所で不要となった紙材を回収・加工することで、新たに梱包用緩衝材を製造し、自社HPなどで販売している。同社は昭和61年に創業。「信頼・安全・迅速」をモットーに運送から保管、物流加工や内職など物流をトータル的に展開する。「約7年前に同商品の製造・販売を始めた」という小林敦郎社長。既存の荷主のセンターなどで、不要紙材を見た時に緩衝材に利用できないかと考えた。
小林社長は「物流で必要となる緩衝材は定期的な需要が見込めた。不要紙材を回収し、リサイクルにつなげることでお客様と当社の双方にメリットが生まれる」と話す。断裁機を購入して本腰を入れた結果、「低価格ということで、定期的に購買者が付いている」と好評だ。また、社長の機動力や発想力から立案した事業で、現在は木製パレットの修理・再生を施し、印刷物用のパレットも低価格で販売している。小林社長は「双方にメリット」を新事業継続のポイントとして、「今後もニーズを的確に追求し、新たな事業につなげていきたい」と意欲を見せる。
問い合わせは、電話072(334)9728番まで。(山田克明)
警備業で再雇用を
青山本店(大阪市西淀川区)の青山明治会長は約20年前から警備保障会社を経営している。青山会長は「運送業では退職金があまり払えないことや、65歳を過ぎると運転に支障もでることから、トラックを降りても働ける職場を提供している」と説明する。警備保障会社は、一人あたりに掛かる人件費が6割ほどで運送業に比べ車両や燃料代など必要経費が少ない。また、資格を取得して、事務所と電話機、営業力があれば仕事はできる。
青山会長は「警備保障会社は運送業と経営や考えが似ている。働く人が自社の商品ブランド。何も知らずに始めたので大変だったが、勉強になった。また、運送業よりも利益率が高い」と語る。
また、新商品を考え出すことを趣味とする青山会長は「遊び感覚で考えることがひらめきにつながる。思いついたことや気になることをメモする癖をつけ、すぐに調べて行動することを心掛けている」と話す。
失敗を恐れず仕事に挑む。青山会長は「ビジネスチャンスは、身近に潜んでいる。何歳になっても、挑戦する気持ちが大切」と語る。(中村優希)
運転代行にエクステリア
金属製品の輸送をメーンに展開するケイ・エム・ジャパン(前島孝行社長、静岡県焼津市)では、エクステリア事業と折り畳み式の原付バイクを使った「一人運転代行サービス」を展開し、事業の多角化を進めている。同社は数年前からエクステリアの設計・施工事業にも参入。今春には静岡市駿河区の住宅展示場SBSマイホームセンター内に展示場をオープンさせた。
エクステリアは施工のアイデアによる差別化が必要とされているが、同社のドライバーは長距離輸送のトラックで遠方に出向いた際に各地で情報を収集するなど、一般貨物輸送業務との連携も見せている。「一人運転代行サービス」は、通常二人必要なサービスを一人で行うことで他社よりも低価格を実現、消費者から好評を得ている。
使用するバイクは重さ約30キロのイタリア製折り畳み式を、燃料が漏れないよう改造。客先までこのバイクに乗り、折り畳んで専用の袋に入れてから運転代行する車のトランクに収納、目的地まで車を届けると、バイクで事務所まで戻る。折り畳み時間は数十秒で、工具は使用しない。
県内では珍しい24時間営業でサービスを展開。日中の冠婚葬祭や、薬剤を投与されて病院から帰宅するケースなど幅広い需要を取り込む。本業で培われた運行や安全管理のノウハウも活用し、消費者に「安心感」を提供する。現在はバイク11台、乗用車4台でサービスを展開。トラック運転者から引退した社員の、雇用の受け皿としても活用する考えだ。(中道幸男)
中古車販売が好調
ヨロズ物流(新谷剛社長、大阪府富田林市)は中古車売買事業とIT事業を展開、本業の運送業とともに売り上げを伸ばしている。中古車売買会社「マスリカ」は平成16年にスタート。毎年の黒字で、現在の年商は4億円にも上る。きっかけは新谷社長が、長距離運行に出かけた大型トラックの駐車スペースを無駄に思い、中古乗用車を置いたこと。当初は従業員に安く販売していたが、一般客からの購入が相次ぎ、本格的に事業を始めた。現在は7人体制で、車やバイクの買い取りをメーンに、幅広いルートから車両を購入している。
また、4月にはIT事業会社「ランドホープ」を立ち上げ、HP作成、業務ソフト開発、ウェブサイト構築などを4人体制で行っている(今月中に2人増員予定)。こちらは、長年IT事業に携わっていた知人が、就職の相談で新谷社長を訪ねたことがきっかけだ。ウェブを利用してサーバの中にソフトを組み込むASP型の業務システムの開発を得意とし、顧客ニーズに対応したサービスとサポート力で顧客数を増やしている。
また、ヨロズ物流も現在、車両26台を保有し、アルミ製品、工事用資材などを中心に、近距離輸送から全国配送と、業績を伸ばしている。
新谷社長は「副業展開は?本業がうまくいっていないから?ではなく、いい人材に恵まれたから始めた。業種は違うように見えても、荷物の流通に加え、車の流通、情報の流通と要望に応えることは同じ」と話している。(大塚 仁)
そば屋「庵」オープン
大栄陸運(千葉市花見川区)の齋藤成弘社長は、9月にそば屋「庵」をオープンさせた。従業員の福利厚生を兼ね、本業である運送業に負担にならないコストで始めたものだが、1か月が経過した現在、齋藤社長は「運送業では得られない貴重な経験」と指摘する。
直接、顧客と接することで、サービス業のいろはが学べるとして、「運送業もサービス業だといわれるが、飲食業からするとまったく別物。すぐに反応がくる飲食業は、まさにサービス業の王道。面白みもあれば、やりがいもある」という。運送業ではなかなか広がり難い人脈も、飲食業により広がりをみせている。「運送業にも飲食業のサービス精神を持ち込むなど、相乗効果を図りたい」と期待を寄せる。(高田直樹)
入念な準備をしてから参入
「取って付けたようなビジネスはダメ。自分で温めてきたものでないと」と話すのは、新鮮野菜を敷地内で販売しているトラック事業者。同社の社長が150坪程度の菜園を借りたのが10年以上前。収穫した野菜は親類や近隣に分けていたが、そこに?野菜の師匠?が登場する。「今の時期は、コレを植えるのがいい」「豆類のつぎにはコレを植えるのがいい」と指導を受けると、収穫量が増加。
そこにやってきたのが世界同時不況だが、野菜販売をビジネスにするアイデアが浮かび、すんなり実行に移れた。繁忙期の品物集めに苦労するなど、野菜ビジネス特有の困難もあるが、野菜を「作る」行為に自信があるからこそ、乗り越えていけるという。(西口訓生)
タクシー機能加えて
日本商運(平木正廣社長、福井県吉田郡)は、昨年6月から貨物輸送にタクシー機能を加えた新サービス「Taxi&Cargo」(タクシーアンドカーゴ)を展開している。これまで一般貨物輸送事業を核に事業展開してきたが、「モノは運べても人間は運ぶことができず、引っ越しやイベント会場の設営など、人とモノが同時に動く場合に不便」(平木秀典専務)。そこで、どちらも運べる貨客事業の認可を取得し、顧客の要望に応えた。
荷物を運ぶことを前提に人を同時に運ぶサービスで、荷物の重量は250-1500?、乗車人員は運転者を除き3-5人。料金は輸送時間と距離に応じて決まる。
現在、引っ越し、コンサート、展示会などで需要があり、「オフィス街での出張ネイルサロンや出張弁当など、潜在している需要はいくらでもある」と、今後も積極的にニーズを掘り起こしていく。(加藤 崇)
人材派遣会社を経営
「数年前から人材派遣会社を運営している。当時、人材派遣法が改正されることが分かり、コンプライアンスを考えるとどうしても自社で派遣会社を持つしかなかった」と話すのは東京に本社を置く引越専業者。「人を常時確保していくことは困難で、なおかつ違反はできないということで会社を設立したが、つくづく大変な時代になったと感じる」という。(土居忠幸)消費者相手に現金商売
運送業界はバブル経済崩壊以降、景気低迷や新規参入などで年を追うごとに繁忙期が短くなり、20年以上も運送事業に携わる事業者は、口をそろえて「今後、運送事業はバブル期のような繁忙期は来ない」と漏らす。運送事業に見切りをつけて商売を変える事業者も存在し、さらに運送以外の商売を模索するところも多い。三神梱包運輸(大阪市住之江区)の西野光信社長は、運送事業で二十数年以上の経験を持つ事業者。取扱事業を中心とし、年間20億円以上の売り上げを誇る。
西野社長は最近の運送事業について「運送事業の開始当時は新規参入が容易ではなかったため、簡単な運送だけでも売り上げや利益は右肩上がりに伸びていった。また、バブル期には人手不足で猫の手も借りたいほど繁盛した。しかし規制緩和などが進んだ結果、運賃は低下し、景気低迷もあって急激に物量は減少した。現在は1年で数か月程度しか繁忙期もないほど。運賃の支払いサイトも長く、手形での支払いも多くなってきた」と話す。
「運送事業以外で事業を考えるとしたら?」と質問したところ、「現金で取引される事業。例えば青果の直売など消費者を相手にした現金商売がいい。事業が大きくなれば取引する金額も多くなり、取引先に万一の事態が発生すれば手形などでは大きな損害を被る。現金で小さな取引ならリスクも少ない」と語る。(佐藤弘行)
新規ビジネスに5つのポイント
船井総研の橋本直行氏は、新規ビジネス成功のポイントとして次の五つを挙げる。(1)本業と近い領域で取り組むこと(2)時流に適応したビジネスに取り組むこと(3)本気のリーダーを充てること(トップ自らが最適)(4)事業計画をしっかり立てること(5)撤退条件を決めておくこと。
また、「現在の『時流適応ビジネス』は、環境・安全・個人・グローバルのいずれかのキーワードにかかるビジネス」と指摘。具体的には、「安全(セキュリティ)」なら、文書保管や食品などのトレーサビリティ(追跡可能性)。「個人」は、形を変えて伸びてきているネットスーパーなどの宅配や通販物流。「環境」は顧客企業の廃棄物削減や処理の効率化、省エネやCO2削減をサポートするサービス。「グローバル」は、中国や東南アジアと絡んだ物流サービスを指すという。(大西友洋)地域活性化の情報サイト開設
急運(名古屋市中川区)は、地域活性化のための情報サイトを立ち上げ、同社のホームページにリンクさせ、新規事業を開始した。立ち上げたサイトは中川、北、守山の各区などの地域情報サイト。「みんなのなかがわ=みんなか」「みんなのきたく=みんきた」「みんなのもりやま=みんもり」など、同社HPから企業応援サイトLOKにリンクすることで、地域情報にアクセスできる。これらは、人気店紹介や掲示板、求人情報、クーポンなどを掲載。地域をくまなく知ってもらうのが狙い。
同社のドライバーが集めてきた情報でブログを展開。出先の情報を書き込み、地域情報を充実させている。運送業務にとらわれず地域密着、活性化に貢献していく方針で、車両にも地元の特産の野菜や魚、タコのデザインを貼り付けている。
小林稔社長は「地域のクリーニング店やパン屋さんなど、昔から地元に根ざし頑張っているところでは高齢化も進んでいる。これから発展するには、どうしたらいいのか。当社で拾った情報を社会に提供していきたい」と抱負を語る。(戸嶋晶子)
積極的な新規事業展開 あくまで運送1本で
和泉冷凍運輸(滋賀県守山市)は「ぷりん工房」(京都市・祇園)を展開している。京都市の福永レッカーでは、レッカー事業と運送事業の2部門を抱え、滋賀運送(同甲賀市)ではトラック運送から鉄道へ脱却するモーダルシフト「DMT?」を提唱している。もちろん、大手運送会社でもアートコーポレーション(大阪府大東市)が子育て支援事業などを展開。SGホールディングスグループの外郭団体である佐川留学生奨学会では、東南アジア諸国との友好親善をめざしている。企業規模にかかわらず、運送事業者も「運送」にこだわらずに事業展開する企業が増えてきているようだ。
一方、あくまで運送事業にこだわる企業も少なくない。「事業を広げるといっても、荷物が食品なのか鋼材なのか木材なのか…といった違い。運送の枠から出ることはない」というのは滋賀県の事業者。京都府の事業者は「得意分野以外の荷物は運ばないし、運送以外の仕事に手を出す気はない」という。「運送業自体が失敗しているかも知れないのに、そんな余裕はない」というのが理由。
積極的に他分野に事業展開するか、運送事業にこだわっていくか、経営者の判断は分かれる。(小西克弥)
本業に力を入れる
「サイドビジネスなんて考えたこともない。本業にもっと力を入れて頑張らないと駄目」と話すのはオータカ(東京都杉並区)の大高一義社長。「サイドビジネスをやっている知り合いもいるが、半分は小遣い稼ぎ。労働集約型産業のトラック事業では、経営者がドライバーの顔や名前が分からなくなってしまうようではいけない。サイドビジネスでも真面目に取り組めば、必ずそうなってしまう。車と人は毎日動いている。本業以外に手出ししている余裕はない」ときっぱり。(土井忠幸)
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