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ブログ・川﨑 依邦
経営再生物語(133)経営改革実践シリーズ(8)
2016年11月18日
(前回からのつづき)
人件費率が70%に近いということは、完全に赤字である。二代目であるA社長と2?車に乗っている勤続20年の最古参ドライバーは、それこそ中学生のころからの顔見知りで、キツいことはなかなか言えない。しかし垣根を垣根のままにしていては、稼働率が悪いままである。
「二つに一つだ。このままだとつぶれる。先代のオヤジには悪いが、ローテーションがどうしてもイヤだったら、やめてもらうしかない」
「やめろということは、会社をやめろということか。ひどいよ坊ちゃん、それはあんまりだ。(労働基準)監督署に訴えるよ」
「好きにしていいよ。訴えるなら訴えていいよ。このままだとつぶれる。赤字でもいいから会社を続けなさい…と監督署も言わないよ。監督署が会社を助けてくれるのか。手を差しのべてくれるか。この場合はどうしようもないよ。わたしだって一つもぜいたくしてないよ。それでも赤字だ。みんなで助け合っていくしかないよ。頼むよ、分かってくれ」
必死の説得である。なにしろ、何一つ包み隠していない経営数字は迫力がある。古参ドライバーは、社長の気迫に圧倒された。
「分かったよ、やってみるよ」(c)成果主義を導入
「がんばったら給料を上げてほしい。ローテーションにも協力する」—-。経営の情報公開によって、乗務員からこんな声が上がってきた。今までの給与は日額に稼働日数を掛け合わせる、ほぼ固定給であった。それに皆勤、無事故、住宅、家族手当が加わる。「これでは張り合いがない」と声が上がった。
そこで、月額の給与を固定給と成果給とに区分することとし、今までの諸手当は廃止した。「自分も経営者ドライバーの気分でがんばりますよ」。月額の固定給は従来の年収の50%を源資とした。月平均稼働日数を24日として、日額の標準ベースを算出した。今までの22日より2日多い24日にして「よし、やるぞ」との気持ちを表した。
成果給は個人別損益に基づいて算出し、数字では分かりづらいものは、評価表を作成して「成果」をつかむこととした。数字ではつかみにくい評価には、安全にかかわる姿勢、荷主に対する姿勢、乗務員としての基本マナーを組み込んでいる。
売り上げをアップさせるための必死の努力が開始された。稼働率が改善される。いままでは傭車の差益で一息ついて、自車で赤字…といった構造であったが、この構造改革により、できるだけ自車でやっていくようにした。必然的に自車の売り上げが上がってくる。成果主義の大きな「成果」である。A社は1年後、見事に赤字から脱出していった。〈全員参加型経営〉
A社が黒字転換できた要因は何か。それは、一人ひとりが経営情報を共有化して「よし、がんばろう」と気持ちが一つになったことである。運送業の生き残る道として、A社の経営は示唆に富む。全員が経営に参画することは、不思議なパワーを会社に与えるものである。
どうしようもない赤字が黒字になる。よく考えれば不思議でも何でもない。経営の大原則を実行し、当たり前のことを実行したからだ。経営の大原則とは経営情報の公開であり、全員経営参画型体制の構築である。 -
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筆者紹介
川﨑 依邦
経営コンサルタント
早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。
株式会社シーエムオー
http://www.cmo-co.com -
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