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ブログ・川﨑 依邦
経営再生物語(148)ゼロになるまでヤル〈事例A〉
2017年3月24日
〈値引きイエスかノーか〉
「ここ10年ばかり、運賃は上がりません。それどころか、10年前と比べて、むしろ下がっています。経営の限界ですよ」とし、「今までやりくりしてきたのが不思議」とA社トップは言う。
「わたしの社長報酬も、この10年変わりありません。それどころか、30%ダウンさせました。60歳を超えても、車のハンドルは離していません。自ら走っています。それなのに、この様ですよ」
60歳といえば、世間でいえば定年である。それが薄くなった髪をなびかせて走っているわけである。
「これから、どうしたらいいでしょうか。社員は20人で、平均年齢は50歳に近い。若いときはみんなよく頑張ってくれましたが、もう年ですよ」
「若いドライバーを、どうして入社させないのですか」
「若い者は続きません。昔と違って、ハングリーさがなく、何を考えているのか、つかみどころがありません。厳しく叱るとすぐ辞めるし、人生に対する意欲が感じられません」
このままだと、確かにジリ貧。中高年ドライバーの集団なので、今さら他の職種への転身を図ることもできない。行けるところまで行くしかない。給料はたくさんほしいが、ダメとなれば、辛抱しかない。
仕事の内容は、車両数18台のうち、15台が月決め専属車両。月ごとに契約している。車種は普通車(2?、4?)中心で、大型車が3台の構成。月決め専属車両(普通車)の平均月額運送収入は60万円。この60万が、ジリジリと下がっている。契約更新ごとに値引きを求められるからである。荷主にしてみれば、月間稼働日数が、労働基準法の週40時間の施行で短縮している。短縮した分に見合うように、月決め運賃をダウンするように求められる。
「いくら稼働日数が短くなっても、車両の固定費は変わらない。車体には荷主の社名を入れているので、よその仕事もできない。専属便の宿命です」と訴えても、荷主には通じない。「とにかく値引きしてください」の一点張りで、「いやなら、いつでも辞めて頂いて結構ですよ」と追い討ちをかけられる。
「無茶を言わないでください。車両別の原価はこのとおりです。とてもできませんよ。値引きは勘弁してください」
「イヤ、とにかく現行より10%ダウンしてください。車両別の原価はどうあろうと、一切関係ありません。黙って値引きに応じるか、サヨナラかのどちらかです。長年お世話になりましたが、うちも生きるか死ぬかの苦しさなのです」
現行より10%ダウンの運賃でも、「はい、やります」と手を挙げている同業者が、荷主の背後にいる。だから、荷主は強気なのである。
60歳を超えてハンドルを握って、体を張って仕事をしているという自負を持つA社のトップ。そこで、手を挙げている荷主のトップに面会した。
「信義と商道に背いている。荷主を取るな。手を引いてもらいたい」
「うちは現行10%ダウンの運賃でも、やっていけます。自由競争の世の中ですよ。手を引くとか引かないとかの次元の話ではありません。うちも生きるために、必死なのです」
交渉は物別れとなる。
会社を創業して30年。車両1台からのスタートだった。いろいろなピンチがあった。しかし、「このたびほど、しんどいことはない…」。A経営者は悩む。それが冒頭のセリフ。「もうダメです。社員の給料アップするどころではありません」 -
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筆者紹介
川﨑 依邦
経営コンサルタント
早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。
株式会社シーエムオー
http://www.cmo-co.com -
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