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  • ブログ・川﨑 依邦

    経営再生物語(170)情と非情のバランスシート〈事例A〉

    2017年9月22日

     
     
     

    〈信頼の含み益〉


     もう一つのエピソードがある。A社の荷主から、夕方ギリギリになってオーダーが来た。配車係は「車がありません」と答えた。この荷主は古くからの付き合いである。それだけにA社長自らハンドルを握って、この荷主の荷物を運んだのだ。

     A社長は配車係の「ノー」の答えを聞いた。「車がありませんと言って、断るな。どんなことがあってもやるのが、わたしの方針だ。わたしを使え。わたしが行く」。A社長は本当に、自らハンドルを握って仕事をこなした。

     運賃は知れている。A社長の1時間当たりの賃金を考えると、割に合わない。確かにこの日は、超繁忙であった。配車係としても、いろいろ手を尽くしての「ノー」の返事である。

     それでもA社長は許さない。創業のころからの付き合いで、ここまで会社を発展させてくれた荷主の一つだ。どんなことがあっても、やってでもやり抜く。A社長は配車係に宣告する。

     「お前はわたしの方針に合わん。あすから運転手に戻れ」

     常日ごろから「金のないのは首のないのと同じだ」と言い続けているA社長。このエピソードは何を物語るか。

     通常の商取引では、このオーダーは割りが合わない。配車係にもそれなりに苦労した。100台の自社車両を有し、それとほぼ同台数の傭車を動かすA社のトップ自らハンドルを握る。一見すると、むちゃくちゃ。しかも、配車係は運転手へと異動である。こうまでしてやり抜くのは、目に見えないバランスシートのためである。荷主との信頼、信用の含み益を大切にしようとしているわけだ。

     A社長いわく。「信用、信頼は金で買えるか。金で買えていると思っているのは幻や。幻はいつしか消えていく。わたしが死んでも、残るのはこの信用や。信用は残る。荷主の心に残る。運転手に戻した配車係も、きっと分かってくれる。おやじの本当の気持ちというものが、分かってくれる。運送屋の心意気というものが、必ず分かってくれる」

     
     
     
     
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  • 筆者紹介

    川﨑 依邦

    経営コンサルタント
    早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
    63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
    中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
    グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。

    株式会社シーエムオー
    http://www.cmo-co.com

     
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