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ブログ・川﨑 依邦
経営再生物語(172)居場所を作る〈事例A〉
2017年9月28日
〈築けない人間関係〉
「あの男はモーレツに働くのです。しかし、会議に出て来いというとイヤがるのです。落ち込んでしまうのです。私の悩みはB氏です」(A社長の言)。創業のメンバーである。本来ならば役員になって当たり前である。しかし、B氏は会議が苦手である。そもそもリーダーシップを取ろうとするタイプではない。人間関係をうまくつくれるタイプでもない。ひたすら働くのみ。B氏がいなくなると困る。代わりの人材が育っていない。そもそも人を育てようとの問題意識もない。社長の悩みは深い。普通の人間の2倍は働く男。休めといっても休まない男。確かに頭が下がるほど有り難い。しかし困る。彼がいなくなると彼の職場は機能しない。組織運営になっていない。
そのうえ独身で、『結婚もできない職場』というイメージがある。「1年で2日しか休めない職場」とは鬼の職場であると思わせる。「経営者の顔が見たい」となる。社長にとっては本意ではない。彼には結婚もしてもらい、幸せになってほしいのである。ところが、その想いとは反対に「何が楽しく生きているのか」と首をかしげざるを得ない仕事ぶりとなっている。A社長の悩みは深いのである。
「こういった男に対しては、どうしたらいいでしょうか。彼の全人生が会社そのものなのです。働くなということは死ねと言っているのと一緒なのですよ。確かに人の2倍は働きます。でも会社経営にとってはマイナスなのです。1人で働くより2人にして、より効率を上げていくことが大切なのです。組織力が発揮されるのです。彼がモクモクとやりすぎるためにマイナスとなっているのです」。そのうえ、B氏は性格がもろいところがある。社長が押し付けていろんなことをやらせようとする。例えば、職場ミーティングのリーダーの役目とする。すると、B氏は自分のカラに閉じこもって一言も口を聞かなくなる。気難しいのである。取り付く島もなくなる。ホトホト手を焼く。「イヤでイヤで仕方ない」様子が手に取るように伝わってくる。そこでできるだけ発言するように仕向けた。粘り強く。重い口が徐々に開く。
ひたすら働くことに全人生をかけているB氏。働き過ぎることがマイナスになるといったケースである。家庭を犠牲にし、休日も取らず生きていく人生は、すごみはあるが、企業経営にとっては良くない。やり過ぎは良くないのである。
「私は彼の顔を見ると、かわいそうでかわいそうでたまらなくなる時があります。何でそこまで仕事をするのか、つくづく聞いてみたい。わたしは社長として社員には当たり前の幸せをつかんでほしいのです」
社長業には確かに人に言えない悩みも多い。ストレスとの闘いである。中でも悩みが深いのは人にかかわることである。人はさまざまである。企業の経営目的は利潤の追求である。それだけではない。人材育成がある。やる気を高めて能力開発することである。単にもうけの追求のみではむなしい。限りがない。
確かに、もうけは企業が生きていく栄養素。それにプラスアルファがいる。それが「人」である。明るく楽しく生きがいをもって、もうける集団でありたい。疲れ果てて心からイヤイヤ働き「金の切れ目が縁の切れ目」と金のみで人とつながりたくない。A社長の想いである。「どうかB氏が幸せになりますように」と手を合わせている。
B氏は社長と一緒になってA社を創業したメンバーである。それだけに社長はB氏に対して想いが深い。「後継者を育成してほしい。結婚してほしい。たまには休んでほしい」―A社長の想いである。
(つづく)
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筆者紹介
川﨑 依邦
経営コンサルタント
早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。
株式会社シーエムオー
http://www.cmo-co.com -
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