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射界
2018年3月5日号 射界
2018年4月6日
思わぬ大雪で交通機関はマヒ、頼みのタクシーはいつ来るか分からない。それでもタクシー待ちの列に並ぶ。そんなとき、湯気を立ててラーメン屋台がやってきた。寒気と空腹の身を満たしてくれる屋台ラーメン一杯。口には出さないものの〝ラッキー〟と叫びたくなるほどの幸福感を味わった。
▲「幸福は幸福の中にあるのでなく、幸福を手に入れた瞬間にある」と記したロシアの文豪ドストエフスキーの『作家の日記』を思い出した。寒空の中で味わった一杯の屋台ラーメン。これほどおいしかったラーメンは今までになく、幸福の頂点に立った思いが寒さを振り払った。「一番の幸せは幸福など必要ないと知ることにある」と説く古賢の言葉が心に染む。
▲幸せを追い求める努力は諒とするも、追っても追っても手中にできない陽炎のように、幸福もまた、追えば簡単に手にできるものではない。「幸福はコークスのようなもの。別の物を作っているプロセスで偶然に得られる副産物」(英国の作家オールダス・ハクスリー)とか、「幸福とは不幸の休止期間」と悟れば心も安らぐだろうが、そうでないのが人間の常だ。
▲〝そもそも〟論になって恐縮だが、煎じ詰めれば「幸福」とは「幸福感」のこと。一度も幸福感を味わったことのない人は、いくら「幸福」を追い求めても決して手にすることはできない。幸福とは味わうもので求めるものではない。寒空の下で味わった屋台ラーメンの一杯は、求めずして得られた、小さな幸福かも知れないが、理屈抜きで味わうことである。
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