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ブログ・花房 陵
物流コストダウンが出来るって?
2008年8月4日
物流ABCが話題になっていますが、理論の構築を行ったロバート・キャプラン先生は最近の論文で反省の弁を公開しています。
●活動基準原価(ABC)の功罪
1)作業調査は無理があった→測定者がいると、作業者は普段しない事まで頑張ってしまう→測定値は過剰生産性になる
2)アクティビティという概念は、きりがなく細かくなるので、測定データを作るだけで疲弊してしまう→ごもっとも。データ量が多すぎて、集計までで息切れして、分析するころには環境が変化している→計測結果が実態と乖離する
3)以上2つの理由から、測定によって得られるアクティビティコストは、信憑性が限りなく薄く、現実味から程遠い・・・・あれっ。
ABC理論の重要な概念で、コスト削減要素の対象となる「未使用資源」=作業者の手待ち時間、手空き時間は、実測の際にはほとんど表面化しないで(何にもしないで、ボーっとしてる人いますか~?)、作業者の稼働率は限りなく100%となっている。実際には、トイレ休憩やタバコタイム、何かしている時間があっても、ABCアクティビティ理論上では表面化しない。
このことを、稼働率は就業時間の80~85%とみなすのが現実的だ。と主張しています。だから、軽くサンプリング調査を行ったら、80%の稼働率でアクティビティ単価(たとえば、バラピッキングコストは30円とか)をみなし設定して、ケースピッキングは標準時間の想像から60円とみなしたら。
とアドバイスしてくれています。な~んだ、そんな。作業測定の実態をご存知なら、もっと早く教えてよ、という感じです。
このことを時間主導型ABCの進め という論文で発表しました。
●物流ABCで何がわかるか
キャプラン先生の反省を見るまでもなく、ABCは間接部門の直接労働時間を測定することで、間接部門の商品原価へのコスト配賦を狙ったものです。その意図は、「収益基準での商品ミックス」です。製造粗利だけでなく、物流活動や設計活動といった間接部門のコストを商品に反映させ、「手間とコスト」のかかる商品を見つけ出して、営業利益を基準にして商品の選別を行うものです。
日本での管理会計(事業別の損益を見て、先攻と撤退を判断する)を商品別に見た1980年の画期的な理論でした。その後、アメリカが日本を席巻したものです。暫時サービス業や銀行、行政サービスまで応用され、専修大櫻井教授によって、ソフトウエア開発コスト管理までつながる宝石です。
アクティビティ単価がわかるというということは、受注単位での物流費がわかり多品種少量物流の原価がわかります。月間の得意先別売上がわかっても、営業利益が分からなかったのが、物流ABCによって本当の利益管理ができるのです。
そして、貢献度の高い得意先、取り扱い商品の物流実態コストが分かり、これからの事業別損益や得意先損益の現実を示してくれるのです。
●物流コストを下げるには使えません
物流の原価である燃料費や時間給人件費に、企業の特別な格差はありません。1時間や1キロトン輸送原価には遜色がないのです。どこに物流コストのロスがあるかというと、手待ち、手空きをさせられている現場と積載未了の輸送回数が原因で、それは物流現場に責任も意思もありません。
出荷指示や商談条件によって決まってしまいます。コストの実態が分かれば、改めるべきは、指示の出し方、商談における物流条件の交渉であってコストダウンの余地ではありません。
コストが分かってなお、受けるべき商談か、目に見える赤字受注を黙認するかの営業判断、いわば営業戦略の組み立てになるのです。
●物流ABCを背景にした商談の進め方
キャプラン先生の紹介事例でも、ABCを利用して受注単位のコストを明確にして「最低受注金額を定める」 → 赤字受注を防止する
「得意先別の仕切り価格を決める」 → ケース出荷が多ければ、値引く「返品のコストを測って、仕切り価格を決める」 → 返品が少なければ値引く
いずれも、得意先に対して物流コストを取引条件に利用して成功した事例の紹介です。物流コストは下げなければなりませんが、コストを掛けても利益が取れる商談に変えていく材料として、物流ABCを利用することが物流戦略の方法論だと思います。
●商品ミックス、事業ミックス、管理会計
物流は企業戦略といわれて久しいですが、「だからコストダウンなんだろ」とお考えの諸氏が多くて閉口します。コストダウンしても売上増加には追いつきませんし、キャッシュフロー経営の観点では100万円の削減より、売上増加の施策が重視さレネバなりません。けれども、赤字受注を放任するようでは本末転倒。
そこで、営業利益を算定できる物流ABCの導入が欠かせないのです。大きなくくりで計測をするなら、詳しすぎるデータを取らなくても、稼働時間は80%と見切ってしまえば、受注単位=伝票1枚あたりの物流費、平均受注額、平均利益額などまでも算出することができます。
バラとケースなら作業費の重さが違います。1枚でも1個でもお届けします、とうたっていた問屋営業も、本音は1ヶ月の総受注額の向上を狙っていたはずです。
実態はどうだったのか。
商品知識、価格情報、取引先の選択など、いまやお客側のほうが執着して情報収集している時代です。
昔の営業手法があだとならぬよう、利益率重視の営業に転換できるように、物流ABCを通じで、物流を取引材料にした商談がこれからは絶対に必要なのです。この記事へのコメント
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筆者紹介
花房 陵
イーソーコ総合研究所 主席コンサルタント
コンサル経験22年、物流から見た営業や生産、経営までをテーマに 28業種200社以上を経験。業種特有の物流技術を応用して、物流 の進化を進めたい。情報化と国際、生産や営業を越えたハイブリッド 物流がこれからのテーマ。ITと物流が一体となる日まで続けます。 -
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