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ブログ・川﨑 依邦
経営再生物語(223)宿命的体質の転換〈事例A〉
2018年11月26日
〈顧客・安全・礼節・第一〉
このプロセスで、つくづく企業の宿命を感じたA社長は、犠牲者の慰霊祭を、毎年お寺で行うようになった。毎年、自問自答しているという。
「わが社の宿命を、どうやって転換させていくか」
この事例を、どう考えるか。過去に起こったことが不思議と繰り返される。なぜか、とりつかれているようである。こんなことがあるのだろうか。事故を起こした乗務員に対してケジメを付け、犠牲者に対しては、お寺で慰霊祭を行うことで、果たして転換できるのであろうか。第一歩には違いない。だが第二歩はどうなるか。
A社では、事故を理由に社員をクビにできなかったが、経営悪化のためということで、希望退職を募り、10人ばかり辞めてもらった歴史がある。トップも25年間に3人も代わっている。今は3代目。第二歩としては、経営陣と従業員一人ひとりの信頼関係の構築ということである。
A社の給与水準は、乗務員1人平均年収が700万円。それがため、年々収益状況も悪くなっている。「それでも、毎年上げざるを得ません」(社長)。労使間は毎年、信頼関係が深まっていく状況ではない。むしろ、不信とあきらめが深まっている。
「苦しい、苦しいと言っても、バックには荷主がいるではないか。要るものは要るのだ」とばかりに、労働組合は昇給を要求する。「仕方ない。トコトン突っ張ってストライキになっても困る」とあきらめる経営陣。
こうした状況、「労使間の不信」の変革が、企業の宿命を変えていく第二歩であり、根本的なことではあるまいか。これは重いことである。A社長は、お寺での慰霊祭の中で、第二歩を模索する。
第二歩としては、A社の経営理念の確立である。「わが社の経営理念はどうあるべきか」。経営理念とは、経営する上での自社の哲学である。「わが社の哲学は何か」。言い換えれば、「自社の価値観」である。
A社長は、自社の「経営理念=哲学、価値観」とは何かと、ふと考え込んでしまった。今まで社長は、どうしたら収支の改善ができるか、そのことばかり考えて行動してきた。改めて経営理念は、と問われて、戸惑う面があるのである。しかし、経営理念を全社に周知し浸透させていくことは、確かに労使間の不信の打開につながると、A社長は思い至る。
自社は、どうして存在できるのか︱︱といえば、顧客あってのことである。「わが社は今まで、荷主に対して、どんな思いで関わってきただろうか」。運賃をもらうところということで、単にそれだけだったのではあるまいか。顧客の満足を追求するという姿勢はどうであったか。物流改善、物流提案を荷主に行ってきただろうか。感謝の念を持って関わってきただろうか。A社長は自社の経営理念の第一に、「お客さまに満足して頂くこと=顧客満足」の追求を掲げた。
A社は、25年間で10人の死亡事故を、今後ゼロにするために、「安全第一」を次に掲げた。安全第一でいくためには、社員の幸せを追求せねばならない。一度に5人もの死亡事故を起こした乗務員は、果たして幸せか。とんでもあるまい。このような不幸な社員を作ってはならない。安全第一を貫くことが、社員の満足につながっていく。同業他社と比して、給与水準がいいだけでは、社員の満足につながらない。事故のない職場で働けるということが、何よりも大切なことである。
3番目として、「礼節第一」を掲げた。物流業に身を置くものとして、礼節を軽視していいはずはない。物流業にとって大切なのは、礼節である。荷主のみならず、会社において礼節を貫くことである。しっかりと心を込めてあいさつをすること、決して信義に背くウソを言わないこと、時間の約束を守ること。この礼節3か条を守り抜き、実践することである。
「顧客第一」「安全第一」「礼節第一」。A社の経営理念は、かくして固まる。
以上
この記事へのコメント
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筆者紹介
川﨑 依邦
経営コンサルタント
早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。
株式会社シーエムオー
http://www.cmo-co.com -
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